日本のみならず、世界中どこでも企業と社員の関係は「親子関係」のようなものだった。企業という「親」が、社員という「子ども」の面倒を見るという図式である。この関係は、終身雇用、きっちりと決められた年功序列、わかりやすい上位解脱の意思決定システムなどによって保障されていた。このきわめて安定した労働環境において、社員の役どころは、長時間働き、上司に口答えせず、上下関係をわきまえた、受け身で従順な「子ども」として振る舞うことだった。
日本以外の国では、この「親子関係」は2つの圧力によって崩壊した。ひとつは、企業のコスト削減、もうひとつは労働者の自己主張である。日本では、さまざまな理由によって、ごく最近まで企業と社員の昔ながらの親子関係が保たれていが、ソニーやパナソニックといった会社がアップルやサムソンとの競争で苦戦を強いられるなか、若い世代を中心にこのモデルに対して批判や疑問を呈する動きが出てきている。
会社と社員の「親子関係」にかわるものは「大人同士の関係」である。大人と大人の関係においては、親と子の関係にあるような安定性と安心感はないが、より自由であり、創造的であり、選択の幅も広い。大人同士の関係を築くには、自分の意思をより強く持ち、自らの選択肢についてよりよく理解し、そして選択によってもたらされる結果をより正確に予測することが課題となる。つまり、「受け身の子ども」から「自らの意思で動く大人」への移行である。私が東京に滞在した1週間のあいだに、「ではどうしたら『子ども』から『大人』になれるのでしょうか」という質問を何度も受けた。以下の3つのことがヒントになるだろう。