毀誉褒貶が激しいのはトランプ候補
もうひとつ気づくのは、トランプ候補のほうが支持層と不支持層とで、グレーで示した「状況が悪化」の構成比が大きく変わる点である。
同値は、女性は46%、貧困層は45%とかなりの割合である一方で、白人は13%、富裕層は5%とかなり小さい。ところがハリス候補の場合は「状況が悪化」の構成比が最大の農村部住民で39%、最小の女性や非白人で27%とせいぜい10%ポイント程度である。
トランプ候補は、階層によってはひどく不安がられているのに対して、ハリス候補の場合は、全体として、当選しても最悪のケースにはならないだろうと思われている。
それではトランプ候補よりハリス候補のほうが断然有利かというとそうでもない。住んでいる地域別の集計では「都市部住民」、「農村部住民」のどちらもハリス候補の場合は「状況が悪化」のほうが「状況が改善」を上回っており、トランプ候補はどちらも逆(「状況が改善」が「状況が悪化」を上回る)だから、米国全土ではトランプ候補のほうが、支持が大きいとも言えるのである。
なお、前々回2016年の大統領選でトランプ大統領誕生の引き金となったラストベルトの労働者層からの支持について、トランプ候補は再度支持を復活させようと必死である。
民主党のハリス候補は、学生時代にマクドナルドでバイトをしたといい、レジなどを担当したそうだ。これを「うそだ」とトランプ候補は決めつける。ハリス候補の約40年前の勤務記録が残っていないからだという。バイト経験で労働者層出身の苦労人をアピールするハリス候補に対し、庶民のふりをしているだけとトランプ候補はやや無理筋の理由まであげて批判している訳であり、当て付けか、マクドナルドのドライブスルーで接客するパフォーマンスまで見せ、日本のテレビでも報じられた。世界の最高政治職とでもいうべき米大統領選がこんな笑劇で左右されると当事者が考えているとしたら不思議な気がする。
米国のマスメディア報道からでは大統領選の実態把握は難しい
日本の報道は米国マスメディアの報道を情報源としている場合が多いが、それでは実態が正しく把握できない可能性が高い。
図表2にはギャラップ社が調査しているマスメディア信頼度の推移を民主党、共和党、独立系ごとに示した。米国国民自体、特に共和党支持層は、マスメディア報道が偏向しているとしてその信頼度に疑問を投げかけるようになっていることが分かる。
実際、民主党のハリス候補を応援する方向でマスメディア報道が偏っている可能性があると同時に、共和党支持層がマスメディアからの取材に対してまじめに対応しないために実態が明らかにならないという側面もあろう。
こうしたマスメディアに対する支持者層の間の見解の大きな相違をさらにトランプ候補は煽っている。11月3日の東部ペンシルバニア州での集会で、トランプ候補は、もし自分への狙撃の巻き添えで、みずからが「フェイクニュース」と決めつけている報道機関の関係者が銃撃されたとしても「気にしない」と述べ、これに対しハリス候補陣営は「暴力的な演説だ」と非難したという(東京新聞2024.11.5)。こうしたやりとりもマスメディアに対する共和党支持層の信頼度の異常な低さが背景になっていると考えられよう。