嘲笑されるようになった“読めない名前”

以上はあくまで明治安田生命のランキングを用いた人気の名の傾向である。従来の子の付く名やいえのよを型(*2)の女性名、及び通称風・名乗風の男性名なども、依然として親次第で名付けられている。

流行の「読めない名前」を素敵だという人もいるが、逆にこの手の名を避け、甚だしく嫌悪する人もいるのである。2000年頃だったろうか、ネットの掲示板などでは、こういう新種の「読めない名前」、特に「騎士ないと」みたいな宛字の名を「DQNどきゅんネーム」と蔑称べっしょうし、無教養な親が名付けるものとして非難・嘲笑していたのを私も記憶している。

「DQN」とは非常識で社会の迷惑を顧みないやからを意味する侮蔑的ネットスラングであるため、当時のマスコミはこの称をはばかって「キラキラネーム」という造語で報じ、今もその呼称が行われている。

各自が自身の常識で受け入れられない、見慣れないと感じる名を漠然とそう呼ぶに過ぎないから、それに明確な定義なぞない。だがこういう名を容認できるかできないかで、人々の価値観や意見に対立や分断が生まれてきたのは確かである。

(*2)きくい、よしえ、やすの、ときよ、すゑを、など、女性名の二音節に、い・え・の・よ・を、いずれかの接尾語が付いた形のこと。

個性を追求した結果、無秩序な宛字が蔓延

名は戸籍に文字によって登録され、その表記が事実上一生ついて回る。殊に戦後は、名を「個人」の「個性」を顕示するものと捉え、名付けを戦前以上に重視するようになった。

親は気に入った音声に当て嵌める漢字を考えたり、先に好みの漢字を決めてその読みを決めたり、平仮名や仮名遣いも含め、名前の文字の視覚や字画にこだわるなど、方法は様々ながらとにかく悩みに悩み抜く。

子供の頭をなでる親
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その懊悩おうのうが真に子のためか、あるいは親自身の趣味や自己顕示のためかはともかく、今や日常称呼する名の音声のみならず、戸籍名とその特定の文字表記に無頓着ではいられない現実社会が、名付けにこだわる前提となっている。

だが平成中期以降、「個性」を追求する余り、前記のような無秩序な宛字手法が広く持ち込まれ、「姫」でヒナ、「睦」でリクという、初見では読めない名前が増加した。こうした名の流行は、他者から「読めなくて困る」とか、本人も「正しく読んでもらえない」「恥ずかしい」と感じるなど、切実な支障をきたし始め、広く問題とみなされるようになってきた。