「ナ・キ・ネ音」の語尾が流行
この美咲時代において、女性名の種類は多様化が進んだ。この時期には遥、彩花、菜摘、七海などが出現し、音声こそ昭和末期以来の型ながら、そこに宛てる漢字が多様になっている。
また優花でユカ・ユウカ、未来でミライ・ミクなど、字は同じでも読みが異なる名が増加の一途をたどり始める。
この時期には千尋、千夏、茜、楓、葵、未来、さくら、萌、凜、莉子、美優、美羽、結衣など、美咲と同様に類型の枠に嵌らない、戦後のランキングにもなかった新種の名が出現して、何となく可愛らしいと感じる二音節・三音節を名付ける傾向が顕著になっている。
莉子も二音節の語感に基づく名付けであって、従来の子の付く名の範疇ではない。なお、里奈・佳奈・奈々・玲奈、美月・菜月、琴音などがこの時期からランキング入りしており、語尾ナ・キ・ネ音の二音節・三音節の名も人気の典型として定着している。
子の付く名のような特定の類型が一強を誇る光景は、この時期に崩壊したといえよう。
個性としての「読めない名前」
†読めない名前の増加(平成15~令和4年)
平成15年、前年までランキングになかった陽菜が首位に出現する。これでヒナ・ハルナなどと読み、以降ランキング上位の常連となって、平成26年までに計7回首位になっている。
平成29年から現在(令和4年)までは陽葵(ヒマリ・ヒナタ・ハルキなどと読む)が上位の常連となり、うち令和2・4年には首位となった。この間の上位の名をみると、さくら、美咲、優奈、葵、結衣、結愛、莉子、結月、陽葵、凛、紬、詩、杏などがある。
このほか、ひなた、花音、真央、愛梨、杏奈、芽依、咲茉、美結、心春、心愛、心咲、心優、花、澪など、平成15年以前のランキングになかった名が数多く出現して常連となっている。
この時期の特徴は、いわゆる「読めない名前」の急増である。人気の語感で名を付けたいが、文字で他者と差別化したいとか、子の名に個性を与える方法として、文字にこだわることが流行し、これまでとは違う手法による、前例のない異字同音の名が増殖していった。