一番人気の「エマ」は表記が24種類もある

明治安田生命HP「名前ランキング」によると、令和4年の読みでのランキング1位は「エマ」であるが、これには咲茉、愛茉、依茉、恵茉、笑茉、愛真、永茉、瑛茉、瑛麻、愛麻、衣舞、瑛愛、英茉、恵麻、咲真、咲舞、笑愛、えま、絵茉、笑舞、衣真、榎真、恵舞、咲愛の24種の表記があり、2位「ツムギ」も紬、紬葵、紬希、つむぎ、紬生、紡衣、月紬、紬衣、紬麦、紬稀、紬妃、紡、紬凪、紬木、紡希、紡生の16種の表記があるという。

令和4年における名前の読み方ランキング。男子の1位はハルト、2位はミナト、3位はユイト
令和4年における名前の読み方ランキング。男子の1位はハルト、2位はミナト、3位はユイト(明治安田生命のHPより)

また「心愛」と書いてココア・ココナ・ミア・コア・ココロ・リズナ・コノア・ミアビなどの読みがあり、「葵」もアオイ・メイ・ヒマリ・アオなどがあるという。漢字をみても読みがわからず、読みだけ聞いても字がわからない。そういう名前がこの時期人気になっている。

文字をみて読みを特定できない原因は、動詞の語幹だけを切り抜いて宛てる(例:「笑む」「む」だから「笑」や「咲」だけで「え」に宛てる)、漢字の音訓から一音節ないし二音節を随意に切り抜いて使う(例:こころをココやコ、さいをサ、はなをナ、なぎをナやギに宛てる)、固有名詞や宛字あてじの特殊な読みを用いる(例:愛媛があるから愛でエと読ませる)、実際には読まない字を付加する(例:心愛でココロ、紬希でツムギ)、誰かが始めた読みへの盲従(例:心をミと読ませる)などの従来普通でなかった手法が無秩序に混在しているほか、名付け親が漢字の音訓を誤って名付けたものや、漢字の字義や現行の音訓を一切無視して名付けに使ったもの(例えば名前の音声を先に決めて、そこに字義音訓の合致しない、単に気に入った漢字をあてはめたもの)などが存在するためである。

なかには「一二三」と書いてワルツと読む、一種のはんものに近い名前もあるという(阿辻哲次『戦後日本漢字史』新潮選書、2010年)。

戸籍法で漢字の読みは規定されていない

これらは漢字にどんなに詳しくても、初見で設定通りには「読めない名前」というほかない。戸籍法は名付けを「常用平易な文字」――当用漢字(常用漢字)・人名用漢字の範囲に限っているのだが、その漢字の読みは規定していない。漢字廃止が目論もくろまれていた同法施行時、こんなことは想定外だったのである。

「読めない名前」の増加は、男性名でも同じである。

男性名のランキングを遡ってみると、昭和前期にはきよしいさむしげるみのるなどの漢字一字三音節が人気であった。この傾向は戦後も続き、特に昭和8年から34年まで10位以内ほぼすべてがこの類型の名が占めている。