筋力増加の鍵を握る「筋肉の酸素不足」
また、週2回・12週間にわたりトレーニングを継続した結果、大腿部の筋肉量と最大筋力がいずれも増加し、これらの効果は重い重量でのトレーニングを実施したグループと同様でした。トレーニングの工夫によっては、「軽い重量」でも十分な効果を得られることが実証されたのです。
なぜスロートレーニングでは、大きなトレーニング効果が得られるのでしょうか? その鍵を握る理由は、「筋肉の低酸素化」です。
心臓から送り出された血液は、動脈と呼ばれる太い血管の中を一方通行で流れています。血液の中には酸素が含まれますので、血液が動脈を通って筋肉に届くことで、筋肉に酸素が供給されます。一方、筋力トレーニングで筋肉が力を発揮すると、筋肉への血液の流入を押し戻そうという逆方向の力が生じます。
つまり、筋肉が力を発揮している間は筋肉への血液の流入が減少しますので、筋肉は次第に、「酸素不足(低酸素)」の状態となります。スロートレーニングは、動作をゆっくりと行う点が特徴です。
例えば、10回の動作反復を行った場合、6秒(1回の動作にかかる時間)×10回=60秒間にわたり筋肉への血液の流入が制限されます。その結果、筋肉は徐々に低酸素の状態となります。また、筋肉には乳酸が蓄積し、「低酸素化×乳酸の蓄積」という情報が筋肉から脳に伝わり、脳から成長ホルモンの分泌が促されるのです(図表6)。
反動をつけず、呼吸を止めないことが重要
スロートレーニングの効果を高めるためには、幾つかのポイントがあります。
1つ目は、「反動をつけないこと」です。重い重量を用いた筋力トレーニングでは、重りを持ち上げる直前に一瞬、筋肉の力を抜き、反動を使って一気に持ち上げることがあります。一方、スロートレーニングでは反動は使わず、ゆっくりとした一定のスピード(3秒かけてゆっくり重量を持ち上げ、3秒かけて下ろす)で動作を持続することがポイントです。
2つ目は、「呼吸を止めないこと」です。重い重量を用いたトレーニングでは、息を止めて一気に重量を持ち上げることは珍しくありません。しかしスロートレーニングでは、呼吸をとめず、運動を持続します。このことは安全面でも重要です。息を止めて重い重量を持ち上げる方法では、瞬間的に血圧が大きく上昇します。一方、呼吸を止めずに実施するスロートレーニングでは、血圧上昇の程度が小さいことも明らかになっています。
スロートレーニングは、スポーツ選手だけでなく、運動を普段実施していない中年の方々、高齢者の方々でも実施可能です。また、バーベルやダンベルなどの器具は必ずしも必要なく、自分の体重を使ったスクワットや腕立て伏せでも良いのです。「筋力トレーニング=重い重量」という常識にとらわれず、普段のトレーニングに導入してはいかがでしょうか?