夏祭りが恐怖の一夜に変わった「毒物カレー事件」

最後に、「和歌山毒物カレー事件」について見てみたい。

1998年7月25日に和歌山市園部地区で開催された夏祭りの最中、自治会が提供したカレーにヒ素が混入していて、67人が中毒症状を訴え、4人が死亡した事件である。

鍋に入ったカレー
写真=iStock.com/karimitsu
※写真はイメージです

和歌山県警は10月4日、別件で同地区の主婦・林眞須美を逮捕し、12月9日にカレーの鍋に亜ヒ酸を混入した殺人、殺人未遂容疑で再逮捕、起訴した。

根拠は、カレーに混入されたものと組織上の特徴を同じくするヒ素が眞須美被告の旧宅から発見された。眞須美被告の頭髪から高濃度のヒ素が検出された。

夏祭りの当日、眞須美被告のみがカレーの入った鍋にヒ素を混入させる機会があり、彼女がカレーの鍋蓋を開けるなどの不審な挙動をしていたという目撃証言があった。

眞須美被告はカレー事件が起きる約1年半以内に、保険金詐取目的で計4回食べ物の中にヒ素を混入して、保険金を手にしていたなどなど。

しかし、最大の謎である「動機」は、自治会の人間と折り合いが悪く、腹立ちまぎれにヒ素を混入させたという曖昧なもので、ほとんどは間接証拠でしかなかった。法廷では、林眞須美被告は犯行を黙秘し続けた。

裁判は1審の開廷数が95回、約3年半に及んだが、和歌山地裁は求刑通り林眞須美被告に死刑をいい渡したのである。

動機は不明、直接証拠も出てきていない

控訴審で林被告は黙秘から一転、自分は犯人ではないという供述を始めたが、大阪高裁は「供述は証拠との矛盾や不自然な点に満ちている」として信用性を否定し、控訴を棄却した。

上告審で弁護側は、「直接証拠も自白もない。動機の解明すらできていない。林被告が地域住民に対して無差別殺人を行う動機などない」と主張したが、最高裁は2009年、弁護側の上告を棄却し、死刑が確定した。

だが、この事件は発生当初から、動機の解明ができていないことや、直接証拠がないことなどから、有識者たちから「冤罪ではないか」という疑惑が指摘されてきた。

林死刑囚は、この判決を不服として3度の再審請求を行い、2回は棄却されたが、3回目は和歌山地裁で受理されている。

「関係者によると、祭り会場にあった紙コップのヒ素と、林死刑囚の自宅で見つかったヒ素が同一だとする鑑定などが誤りだなどと主張する方針という」(読売新聞オンライン2024年2月20日 22:34

私は、この事件が冤罪か否かを判断する何ものも持ち合わせてはいないが、最も重要な動機の解明を検察も裁判所もなおざりにして、死刑判決を下していいのかという疑問はある。

さて、紀州のドン・ファン殺人事件に戻ろう。