60代以上で6時間以上眠れる人は稀である

加齢による筋力の低下も、睡眠の質の低下につながります。舌やのどの筋力が低下すれば、舌の根元やのどの奥の部分が落ち込み、いびきや睡眠時無呼吸症候群を招きます。さらに、尿を溜める膀胱は筋肉でできているため加齢により硬くなります。

また膀胱をハンモックのようにして支える骨盤底筋も年齢によって緩みが生じます。これらの筋力が低下することで夜間にトイレに行くことも増えていきます。

このように、年をとると、睡眠時間が短くなるうえに、睡眠の質も低下します。

しかし、悩む必要はありません。一般的に60歳では6時間ほどの睡眠で十分だと考えられています。60代以上で6時間以上眠れる人は稀といっても良いくらいです。

6時間以上眠れていないからといって、睡眠時間を多くしようとしても、眠れないことがストレスになって不眠を意識することにつながります。

また寝床で過ごす床上時間を含めた睡眠時間が8時間以上の人は、7〜8時間の人と比べて死亡リスクが1.5倍も高くなるとの報告もあります。

ベッドでダラダラ過ごすよりも、床上時間を減らすことで睡眠効率が上がり、不眠が改善するケースもあるのです。

日本は「1日の平均睡眠時間」が圧倒的に少ない

睡眠に悩みを抱えている人のなかには「早寝早起き」を目標としている人もいます。「早寝早起きが健康に良い」と、いろんな場面で言われ続けてきた人は多いはずです。しかし、これも現代社会においては、幻想といっても良いでしょう。

早寝早起きは必ずしも良いわけではありません。たしかに、早寝早起きをしている人は「体内時計が整っている」とはいえるでしょう。しかし、睡眠学を研究している者からすると「体内時計が整っている」だけでは十分ではありません。

人によって体内時計のリズムが違うことが明らかになった今、早寝早起きをするだけで、健康的な生活を送ることができるという科学的根拠はないのです。重要なのは必要な睡眠時間を確保することです。

経済協力開発機構(OECD)が、2021年に加盟33カ国を対象に行なった「1日の平均睡眠時間の調査」によると、全体の平均時間は8時間28分で、もっとも少なかったのが日本で7時間22分。次が韓国の7時間51分でした。

とくに日本は平均睡眠時間より1時間も短くなっています。日本の都市生活者はさらに少ないとされています。その一方、平均睡眠時間がもっとも長いのが南アフリカの9時間13分。次いで中国の9時間2分、アメリカの8時間51分です。

米シンクタンクのランド研究所は、2016年に日本人の睡眠時間が6時間未満と少ないことで生じる経済的な社会損失は年間15兆円になるとの試算を報告しています。