漫画はビジネス書、コンビニは経済メディア

「しかしだな。『サボり=悪』と、簡単に決めつけてしまう君のその正義感。どうだろうか。俺はあやういと思うぞ」

「何を言っているんですか。サボりは悪でしょう」

目の前に吐かれた煙を手で払いながら、さらに強く返す。

「昨日だって喫茶店で! 百歩譲って、経済誌やビジネス書を読むならまだしも! 漫画を読んだり、コンビニを何軒もはしごしたり……、高山さんは一日中ダラダラすごしているだけじゃないですか!」

相手が自分より一周り以上年上の経営者であることを忘れて、まくしたてた。

それでも、高山は全く動じない。背もたれに体を預けたまま、ニヤリと笑う。

「君はやさしくないな。全く偏見にまみれているよ。俺のサボりが『無駄な時間だ』と、なぜ言い切れる?」

やれやれとポケットからペンを取り出し、伝票の裏に何かを書き始めた。

「俺にとっては、漫画こそがビジネス書なんだ。そして、コンビニは経済メディアだ。君はドラッカーやカーネギーなんかからビジネスの真髄を学んでいるんだろ?

それと同じように、俺は『刃牙』や『美味しんぼ』などの漫画から営業マンとしての心得や美学、教養を学んでいるのさ」

森羅万象全てが師匠

「じゃあ、コンビニのはしごも、世の中のトレンドやマーケティングについて探るため、とでも言うんですか?」

「当たり前だ。コンビニだけじゃない。ファミレスも個室ビデオだってそうさ。むしろ、森羅万象、この世の全てが俺の師匠だ。俺がいつもオフィスにいないのには、ちゃんとした理由がある。会社に引きこもっていると、師匠たちに学ぶ機会を逸するからだ」

高山は何かを書き終え、伝票を見せてきた。「森羅万象全てが師匠」と書かれた図がある。

僕は少し考え込んでしまった。確かに、今までそんなふうに周りの物事を見たことはない。ただ……コンビニやファミレスからビジネスのヒントを得ようとするのはまだわかる。漫画や個室ビデオからは、一体何を学ぶというのだろうか。

「……やっぱり納得できません。ただサボるための口実にしか聞こえないです」
「まあ、いいだろう。君にもいずれわかるときがくるはずだ」

そう言って、高山は窓の外を見た。サングラスの奥の目は一体何を見ているのだろう。高山の言いたいことが読み取れず、僕はそれ以上何を言っていいかわからなかった。