“サイレント・キラー”と呼ばれる病気をご存知だろうか。音もなく忍び寄る殺し屋・高血圧のことである。
これといった自覚症状もないままに、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞、腎不全を引き起こし、最悪のケースでは「死」に結びついてしまう。日本では2500万人が高血圧ともいわれており、糖尿病、痛風、がんなど数多くの生活習慣病の中で、最も多い疾患となっている。
その高血圧の中でも、いま大いに注目されているのが「早朝高血圧」である。病名のとおり早朝に極めて血圧が高くなる病気で、高血圧の中でも、より死に結びつくような疾患を引き起こすケースが多いことがわかってきたからだ。
アメリカの研究報告で心臓突然死がどの時間帯に起きたかという調査がある。それによると突然死のピークは午前8時から午後11時にやってくる。つまり心臓突然死と早朝高血圧が連携を示していると考えられるのである。
さらに、これは科学的根拠を示すデータではないが、心筋梗塞で倒れ、助かった人々16人に取材を行ったことがある。彼らのうち12人は朝に心筋梗塞を起こしていた。典型的なケースでは、朝7時に目覚め、8時30分に出勤のために家を出て、駅まで歩いている途中に発作が起こっていた。
早朝高血圧では、カテコールアミンという血圧を上げるホルモンの活動が高くなるため、血圧が上昇しやすい。問題は、患者の多くは、実際に血圧が高くなっている早朝に血圧を測るのではなく、循環器内科を受診したときだけ血圧を測るため、病気に気づきにくい点だ。そのため専門医では、家庭で朝と晩に血圧を測ってもらい、血圧手帳に記入するよう指導を行っている。
最近では、患者自身が毎日血圧測定を行うことで、早朝高血圧の実態も浮き彫りになってきた。また、体温計、体重計並みに「血圧計」を揃える家庭も増えている。高血圧が気になる人はまずは1週間でもよいので、朝夕しっかり血圧を測ってみることだ。朝の血圧の平均が「上(収縮期血圧)が135ミリHg以上、下(拡張期血圧)が85ミリHg以上」であれば、専門医での治療が必要となる。
治療の中心は、まずは「生活習慣の改善」である。規則正しい生活、適度な運動、塩分を減らした食事、適正飲酒を心がけ、ストレス過多にならないように注意することだ。それでだめな場合は「薬物治療」に入る。早朝血圧の上が200ミリHg近い人は、徹底した血圧コントロールが必要となる。
食生活のワンポイント
高血圧の予防には、何といっても塩分の摂取量を減らすことだ。日本人の平均食塩摂取量は1日12グラムだが、WHOの目標設定は1日6グラムである。また、理想の食生活を求めて世界25カ国、60地域の学術研究に取り組んでいる京都大学名誉教授の家森幸男氏は、1日7グラムを推奨している。
人間は食塩をまったく加えない食事をしても、1日に3グラム程度の塩分は摂取してしまう。実際、食塩を意図的に摂らなくても、困ることはない。アフリカのキリマンジャロ近くに住むマサイ族には高血圧の人がいない。それは、彼らが食事に食塩をまったく使わない食生活をしているからだ。
そうはいっても、まったく食塩を使わない食生活は難しいので、まずは次の3つのポイントだけでも実行すると違ってくる。
1、生野菜は野菜の味だけで食べる。
野菜で旬のものを選べば、野菜そのものの持つおいしさだけで十分満足できる。
2、カリウムの多い食材を多くする。
カリウムは余分な塩分を排出する。小松菜、ホウレン草、乾燥バナナ、ひじき、みつば、セロリ、たけのこ、納豆など。
3、塩以外の味付けを楽しむ。
塩味だけが料理ではない。酢の物、カレー風味などいろんな味で工夫を。