不況を機に世論は大きく変わった
具体的な規制の枠組みを説明する前に、天下りが規制の対象となったのは、それが公務員の特権と映ったというのが率直な理由だ。既述したように、予算の無駄遣いやマーケットを歪めるという側面もあるが、バブルがはじけ、失業率が史上最悪と言われる水準となり、格差社会で貧困に陥る者が続出する中、優雅な第二の人生は世論の怨嗟の的となったというわけだ。
しかも、経済成長の鈍化と高齢化の進展で予算配分を大きく変えなければいけない。そんな時に、天下りのためだけに多くの非営利法人が存在し、そこに多額の予算が投入されるのだ。国民の怒りに火がつくのは当たり前だった。経済状況が良かった頃は、官僚という優秀な人材が能力を存分に発揮するのは良いことだとしていた世論が、不況を機に大きく変わったといってもいいだろう。
ちなみに、天下り規制を巡る国会審議などフォーマルな背景などについては小林公夫「国家公務員の天下り根絶に向けた近年の取組」(『レファレンス』国立国会図書館及び立法考査局編、国立国会図書館、2012年)が詳しい。
さて、今現在の規制の枠組みに戻ろう。まず、新たな枠組みの基本となったのは、営利企業、非営利法人を問わず、役所による再就職の斡旋を禁止し、官民人材交流センターに一元化することである。かつて役所は頑なに、斡旋の存在を認めてこなかったが、この改革は大きな前進だった。次に、職員が自らの職務と利害関係を有する一定の営利企業等に対して、求職活動を行うことの禁止である。三つ目は、再就職した者が離職前に在職していた組織の役員等に対して「働きかけ」を行うことの禁止である。
「能力本位の再就職」は認められている
その一方で、新たな枠組みでは、能力本位の再就職は認められるようになった。見方によるが、かつてより規制が緩くなったとも解釈できる。能力本位だと言い張れば、民間でも独立行政法人でもどこでも、離職後即座に再就職できるからだ。
これらの改革の枠組みから、天下りは「事前規制」から「事後規制」に転換したと言われる。能力本位の再就職は自由だが、再就職後に立場を利用して役所に影響を及ぼそうと「働きかけ」れば罰されるからだ。
それでは事後規制に軸足を置いた新たな天下り規制の枠組みのどこに要諦があるのだろうか? それは監視機関の存在だ。
07年の法改正では、そのために再就職等監視委員会を設置することにした。簡単に言えば、役所が斡旋していないかどうかを監視する組織だ。監視組織が機能すれば、能力本位でない再就職はしにくくなる。事後規制の枠組みでは、もう一つ、毎年度、再就職状況を公表する制度も設けられた。公表措置を軽くみる人もいるが、使い方次第で有効だろう。曲がりなりにも、幹部公務員以上の再就職先は公表されるのだ。疑惑があれば表面化する可能性も出てくるし、再就職する官僚側にしても「公表しなければならない」というのは、強い圧力にはなるからだ。