富山県の職員が、出張先のオーストリア・ウィーンで、公務後にコンサートを鑑賞したことが話題になっている。歴史評論家の香原斗志さんは「公費での出張だからこそ、勤務後はむしろ他国を視察すべきだ。冷静さを失って公務員たたきをすることは、損でしかない」という――。
富山県庁舎
富山県庁舎(写真=663highland/CC-BY-2.5/Wikimedia Commons

このニュースを触れて「日本はもう終わり」だと思ったワケ

大げさに聞こえるかもしれませんが、このニュースに触れての率直な感想は、日本はもう終わりではないか、というものでした。ニュース自体は小さな話です。しかし、そこには失われた30年を経て、経済も人の心も淀んだままのいまの日本の病理が、象徴的に表れているように思われました。

そのニュースは、富山県政記者クラブに6月14日、「現状を憂う公務員」を名乗る匿名の投書が寄せられたことに端を発していました。

投書の内容は、富山県土木部の山下章子次長が、出張先のオーストリアのウィーンで、コンサートを鑑賞したことをSNSに投稿している、というものでした。「最近、公務員の不祥事が続いているが、こうした事案も県民の公務員に対する信頼の失墜につながっていると言わざるを得ない」と、批判が加えられていたそうです。

SNSには、実名の「山下章子」というアカウント名で6月12日に投稿され、「仕事の後に行ってみた」と断ったうえで、ウィーン・フィルのメンバーによるカルテット(四重奏)を聴いた、と記されていたとのこと。

富山新聞によると、山下次長の上司にあたる金谷英明土木部長は、山下次長をふくむ県の土木部職員3名が「国際防災学会インタープリベント」に出席するため、8日から16日の日程でウィーンを訪れていたのは事実だと認めています。

そのうえで「プライベートの時間に行ったのだと思うが、誤解を招かないようにするべきだ」と、苦言を呈したそうです。

上司の発言こそが誤解を生む

最初に思ったのは、「こうした事案」のいったいどこが「公務員に対する信頼の失墜につながっている」のか、ということです。

「仕事の後に行ってみた」のであれば、それは日ごろ日本で、休日に映画を見たり、スポーツを観戦したり、観劇したり、あるいはスポーツに興じたり、カラオケに行ったり、温泉で疲れをいやしたり、という行為となんら変わりがないはずです。

税金から給与が支払われている公務員は、そうした行為も自粛すべきだでもいうのでしょうか。そんなことをいい出したら、公務員になる人などいなくなるでしょうし、公務員になったが最後、人間らしい生活ができないことになります。

それに、「仕事の後」のことに干渉するのは、いまの「働き方改革」の流れにも抵触するのではないでしょうか。ましてや、山下次長は公務員なのだから、ダラダラと仕事をせずに余暇を充実させるお手本を示す立場にいるはずです。

山下次長は「仕事の後に行ってみた」と断っている以上、「誤解」される余地などありません。金谷部長の「誤解を招かないように」云々という苦言こそが、世間に誤解を与えています。