むしろコンサートに行かないことが批判されるべき

もう一歩踏み込んで、せっかく音楽の都ウィーンに出張しながら、コンサートにも行かない公務員こそが非難されるべきではないか、ということを思います。

異常な円安のせいで、海外に出向く日本人は減っています。留学する人の数も激減しています。そんな中、出張で海外に出向いた公務員が、海外の空気を吸い、外国人と交流し、現地の文化に触れて帰国することには、大きな意味があるはずです。

現代社会は、情報通信技術が進展し、交通手段が発達したこともあり、否が応でもグローバル化が進んでいます。反グローバリズムの立場をとるにしても、世界に目を向けないことには、対抗することもできません。ところが、島国の日本はただでさえ海外との接触がおろそかになりがちなのに、円安が原因で、国際的な感覚からますます離れてしまいそうなのが現状です。

そんなときこそ、海外に出張する公務員の存在は貴重です。そして、出張した以上は、その国の人々や文化にできるかぎり接して、いまの日本のあり方やものの考え方を相対化できる力を、少しでも身に付けてほしいと願います。

したがって、山下次長は仕事の後、すぐにホテルに戻って部屋でくつろいでいたなら、批判されても仕方ないでしょうが、コンサートに行って本場の音楽に触れたなら、批判どころか賞賛されるべきなのです。

演奏中のオーケストラ
写真=iStock.com/Yori Meirizan
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県民にとっても有益な行為

そもそも欧米の国際会議の出席者のあいだでは、コンサートやオペラなど欧米の芸術や文化の話をまったく解せない人は、まともに応対してはもらえません。ましてや音楽の都ウィーンです。国際会議の場でも「音楽は聴いたか」「ぜひ聴くべきだ」という話をされるでしょう。それを無視するようなら、相手にしてもらえません。

それに、日本人は文化を解さない、ウィーンに来ても音楽ひとつ聴かない、などと思われてしまったら、日本人のイメージが低下し、国益を損なうことになります。公務員には、そうして国益を損なったりしないようにする意識こそ、求められてしかるべきでしょう。

さらにいえば、公務員が本場のコンサートを聴いて情操を育て、文化的な教養を高めることが、日本国民にとって、この場合は富山県民にとって、少しでも不利益をもたらすことになるのでしょうか。

私が「行政に携わる人ほど、豊かな情操や高い教養を備えていてほしいではないか」と問いかけたら、多くの人が賛同してくれるのではないでしょうか。公務員は、堅物であってほしくありません。柔軟に考え、いろいろな状況に臨機応変に対応できる人であってほしいではありませんか。

公務員がウィーンに出張した際、仕事が終わったらホテルに帰るべきか、それともコンサートに行くべきか。教養がなく融通が利かない堅物に行政を取り仕切ってほしくないと思うなら、答えは後者の一択でしかないはずです。