理由 その1「意思決定の質が下がる」
まず1つ目の理由「意思決定の質が下がる」について解説します。これは、さらに次の3つの要因に分解できます。
・多数派に不利なことは否決される
・多数決を選んだ時点で思考停止する
【要因1】“多数派=正しい”ではない
意思決定を多数決に委ねるということは、「多数派の選択が少数派より正しい」とみなしていることと同義です。しかし、そもそも多数派の選択は少数派より正しいのでしょうか?
たとえば、政治の世界では、少なくとも民主主義の制度が浸透している国であれば、選挙における投票を通じて多数派の意見が反映されるようになっています。しかし、民主的であるかどうかと「多数派の選択が論理的・客観的に正しいかどうか」はまったく関係がないはずです(たとえば、世界史におけるガリレオの地動説のエピソードが良い例です)。
会議での意思決定において明確に採決しないにしても、「“何となくこっちのほうがいいよね”という雰囲気が漂っている」という空気感で物事が決まっていくことはよくあったりしますよね。これについても気をつけなければなりません。ですから、意思決定の際には、必ずしも「“多数派=正しい”ではない」ということを意識して臨みましょう。
変化を嫌うベテラン社員に要注意
【要因2】多数派に不利なことは否決される
多数決を採用する以上は当然の帰結ですが、組織や会社全体の全体最適の実現を邪魔することになりかねません。もし、論理的に考えて会社の成長や顧客にとってプラスになるようなことであっても、意思決定に多数決を採用してしまうと、会議参加者の多数派にとってマイナスになるようなことは否決されてしまうのは必定です。
たとえば、会社全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することになったとします。そのための第一歩として、「まずは現場の声を聴こう」ということで営業所のペーパーレス化を推進するために、社員のAさんは大量の紙に埋もれて業務をしている営業所員を集めて次のように話しました。
「まずは手はじめに、営業所のペーパーレス化から取り組みたいと考えています。その前提として現場の皆さんの意思を尊重する必要があるので、ペーパーレス化の推進の是非について皆さんの決を採りたいと思います。では、ペーパーレス化に賛成の方は挙手をお願いします」
この進め方は明らかに悪手です。
なぜなら、このケースのような場合、特に年配のベテラン社員が多い場合には、「変化することへの抵抗感」から反対する人が多いからです。客観的に考えれば、ペーパーレス化によって現場の業務を効率化すれば、営業所員全員の業務は楽になるはずなのですが、ベテラン社員にとっては長年の経験で体に染みついたやり方を変えることは単なる面倒なことでしかありません。
さらに考えを進めると、そもそも「会社全体にとってのプラスになるかどうか」という視点を過半数の営業所員が持ち合わせているでしょうか? 正直、あまり期待できませんよね。
このように、多数決で意思決定をすることによって、かえって部分最適に陥ってしまったり、反対に部分的にすらマイナスの結果をもたらしたりすることになりかねません。