意思決定のためのコストが増大する
【要因1】根回しが発生する
「根回しが発生する」とは、いったいどういうことでしょうか?
自分や組織にとって大きな影響を及ぼす意思決定であればあるほど、そして自分たちにとって不利な決定がなされる可能性が高ければ高いほど、どうにかして有利な結果になるように誘導したいというインセンティブ(誘因)が働きます。
その意思決定が論理と客観的な情報によってなされるのであればよいのですが、多数決でなされることが事前にわかっていれば、意思決定で有利な結論を得るために、会議参加者への根回しを行なうインセンティブが発生します。つまり、事前に関係者に根回しをしておけば、会議の場では形式的な議論に続いて多数決で意思決定を行ない、想定通りの結論に至るように誘導することができてしまいます。
とはいえ、根回しには相応の時間と労力がかかるものです。
そもそも会議の中で決めれば1時間、あるいは2時間などといった短時間で結論を導けるところを、その時間に上乗せして数時間、あるいは数日間を根回しに費やすことになるかもしれません。
それはつまり、意思決定そのものにかかるコストを増大させていることにほかなりません。本来はもっと別の価値を生んでいたはずの時間を根回しに費やしてしまうことで、業務生産性の低下を招いてしまうのです。
議論から逃げることはできない
【要因2】上司からの差し戻しが発生しやすくなる
業務生産性が下がる理由はほかにもあります。「上司からの差し戻しが発生しやすくなる」からです。これは先述したの「理由を客観的に説明できなくなる」という話と関連があります。
意思決定を多数決にゆだねることによって得た結論を上司に報告すれば、きっと「なぜ、その結論に至ったのか?」と聞かれるはずです。その際に「参加者の多数決で決めました」と報告したら、聡明な上司であれば「それは私の問いに答えていない。なぜ、その結論がほかの選択肢よりも優れているのかを論理的に説明してください。それができないのであれば、再度、議論して客観的に説明ができる結論を出しなさい」などと差し戻されてしまうのがオチでしょう。そうすると会議をやり直して、もう一度議論しなければならなくなってしまいます。
【要因3】意思決定が誤った場合の検証ができなくなる
最後の「意思決定が誤った場合の検証ができなくなる」について見てみましょう。
会社や組織で行なう意思決定は、一度しか行なわないということはありません。些末なものも含めれば日々、意思決定の連続ではないでしょうか。
そして、その意思決定の積み重ねがビジネスの成否に大きく影響します。ゆえに、意思決定の質を上げることが肝要です。意思決定の質を上げるためには、過去の意思決定の内容と結果について検証を行ない、改善していくのが有効です。
ところが意思決定を多数決で行なってしまうと、「なぜこのような結論に至ったのか?」という問いに対する答えが「多数決で決めました。以上」となってしまいます。
本来であれば「意思決定の際の論理に問題があったのか」、もしくは「集めた情報に過不足や鮮度などの問題があったのか」、はたまた「論理と情報の両方に問題があったのか」といった観点から検証を行ない、その反省を活かし、次回以降の意思決定の精度を向上させることができるはずなのです。
多数決を採用するということは、その機会をみすみす逃してしまうことにほかなりません。ゆえに、意思決定の質がいつまで経っても上がらず、その結果ムダな会議が増えてしまいます。
意思決定は多数決ではなく、しっかりと議論をしたうえで結論を導くことがいかに重要であるかを理解していただければ幸いです。