サッカー界で普及するエコロジカル・アプローチ

ここまで野球の話をしてきましたが、制約を用いた練習は、特にサッカーの分野で研究され実践に移されています。

アフォーダンスを活用することで、複雑な運動連鎖や即興的なコンビネーションといった、具体的に指示しづらい行為を効率的に習得することを期待されています。

実際に、イングランドのサッカー協会は2017年から練習のガイドラインにアフォーダンス関連の記述を追加し、国家単位で競技力を向上させようと画策しています。いまやサッカーを上達するためには、行動経済学や認知科学の知識も必要になる時代になりました。

制約を用いた練習は、制約主導アプローチ(CLA:Constraints Led Approach)と呼ばれます。制約主導アプローチを中心メソッドにした、“エコロジカル・アプローチ”や、制約を用いることで選手に戦術を効率的に学ばせる“戦術的ピリオダイゼーション”は、サッカーの練習理論としてヨーロッパを中心に急速に広まっています。

試合前練習を見るときには隠れた制約に注目

このエコロジカル・アプローチや戦術的ピリオダイゼーションでは、本稿で紹介した野球のホームランの練習法のように、選手が自然に技術を引き出すための理論やテクニックが用いられています。

制約はどのように分類されているのか、具体的に制約をどう現場に落とし込めばいいのか。ここでは具体的な練習理論には立ち入りませんが、気になる方は、ぜひエコロジカル・アプローチや戦術的ピリオダイゼーションを扱った本を書店などで手に取ってみてください。

近年は野球をはじめとして、様々なスポーツで制約・アフォーダンスのブームが来ていると聞きます。サッカーの最先端理論に触れることで、他のスポーツにも参考になる点がたくさんあると思われます。

これからの指導者は、自身の指導にどのような制約が隠れていて、それがどういう動作や意思決定を導いているのか、理解することが求められるといえるでしょう。また、スポーツファンのなかには、試合前の練習を見るのが好きな方もいます。練習を見る際は、その練習に隠された制約に注目してみるとおもしろいでしょう。