はやりのホームランテラスは科学的にも効果がある

グレイの研究では、柵越えを意識するとホームランが上達することが示されました。これは、月に向かって打ったことで大打者になった大杉勝男と似たものを感じます。

近年はホームランを増やすためにホームランテラスを取り入れるチームが増えていますが、ホームランテラスは単に外野を小さくしてホームランを増やすだけでなく、テラスという環境制約を作ることでホームランを増やす可能性も秘めています。

グレイの研究を参考にするならば、ホームランテラスでホームランが増えた場合は、テラスを少しずつ遠ざけていくと、自軍だけホームランが増えるかもしれません。もちろん、プロ野球の競技規則に反さない前提ですが、アフォーダンスを用いることで、チームの特長を活かしたり、チームの作戦を円滑に進行させたりするようなスタジアムを作ることができるともいえます。

持ち手が2つある練習用バットが流行した理由

グレイは他の研究(※2)でも、野球動作における制約の重要性を示しています。この研究では、後ろ腕と脇腹でボールを挟みながらスイングするといったトレーニングをすると、逆方向への打撃(右打者ならライト側、左打者ならレフト側に打つこと)が上達することが判明しました。

※2:Gray, R.(2020). Comparing the constraints led approach, differential learning and prescriptive instruction for training opposite-field hitting in baseball. Psychology of Sport and Exercise, 51, 101797.

このグレイの研究を代表として、野球界では“制約”を用いた練習のブームとなっているようにも感じます。

著名な野球ジムであるドライブラインでは、constraint(制約)を用いた練習ドリルをホームページに掲載しています。

実際、メジャーにおける最先端の科学的トレーニングを紹介する書籍『The MVP Machinev(邦訳:アメリカン・ベースボール革命)』では、制約やアフォーダンスを意識していると思われる練習が多く登場します。

野球の上達のためのグッズにも、アフォーダンスや制約が隠されています。たとえば、グリップが2つあるバット「シークエンスバット」が2022年に流行しました。これは2つのグリップを正しく動かすことで、適切な手首の動きを誘導するための野球道具になります。

このように、新しい練習方法や練習道具の背景には、制約やアフォーダンスという概念が隠れています。近年はSNSの発展により、練習法や道具について、溢れるほどの情報が手に入るようになりました。

指導者や選手が、トレーニングの背景にある制約やアフォーダンスに目を向けることで、適切な情報の取捨選択につながるといえるでしょう。