3パターンの練習方法で長打力を鍛える実験

グレイは、フライを打つのが苦手な野球経験者を30名集めました。この30名を3つのグループに分け、それぞれ別の練習をさせて、上達の仕方がどのように異なるかを比較しました。

練習期間は6週間で、毎週60球を打ち返すという練習でした。

1つ目のグループは、柵を越えるように打つよう指示されました。制約(スポーツ版ナッジ)を用いたのです。最初、柵はホームベースから45m離れた箇所に設置してあります。打球が柵を越えたら、柵を遠くに移動します。柵を越えなかったら、柵を近くに移動します。これを繰り返して、遠くの柵を越えるように打つ練習をします。

2つ目のグループは、ホームランを打つための現象を説明されました。バットとボールが何度で衝突するように打つというように、どのような物理現象をすればホームランになるかの説明を聞いてから、練習に臨みました。

3つ目のグループは、ホームランを打つための体の動きを指導されました。腕はこう動かす、足はこう動かすといったように実技指導がなされました。

2つ目の現象を説明するグループと、3つ目の行為を指導するグループは、従来の練習方法に近いように思えます。スポーツ版ナッジと、これらの従来的な練習方法のどちらが効果的かを比較した実験となっていました。

柵の位置を調整したグループは以前より打てるようになった

6週間の練習の結果、柵越えを指示したグループ(スポーツ版ナッジ)では、従来の練習方法のグループ(現象を説明、行為を指導)に比べて、ホームランの数や外野フライの割合が高まることが示されました。

この結果は、柵を越えるというゴールを設定することで、現象や行為を説明しなくてもホームランを打つスイングが上達する可能性を示しています。直接指導するのではなく、環境(柵の場所=スタジアムの形状)に制約を設けることで、理想の動作を導くという、まさにスポーツ版ナッジが活かされた結果となっています。

どうして、従来の方法に比べてスポーツ版ナッジに効果があるのでしょうか。グレイは、運動の協調性が効率よく学習されるためだと考察しています。たとえば、従来の指導では腕の動きと足の動きを別々に学ぶ必要があるのに対して、制約を用いたやり方では動作全体を学べるので、効率的な上達につながるという可能性が考えられます。