ザ・リッツ・カールトン東京の総支配人フランソワ・ノッカート氏には、「サービス」に対する哲学がある。
「基本的にサービスを受ける側に、国や文化の違いはないのです。人の根底にある欲求、それは『大事にされたい』と願う心です。
ただ、その目的は同じでも、手段は国や文化によって異なります。
西洋と東洋、あるいは同じアジアでも中国、日本、韓国ではそれぞれ求められる気づかいのあり方は違う。そこに我々は気をつけなくてはならないのです。
たとえば同じリッツ・カールトンでも、アメリカではチェックイン時に荷物を持つサービスはしていません。彼らはそれが『サービス』だとは考えないからです。
むしろビル・ゲイツのような人物は、絶対に自分で荷物を持ちたがります。他人に荷物を預けることで1秒たりとも時間を無駄にしたくないからです。
ところが日本人は違います。どんなに小さな荷物でも、日本人はホテル側に持ってもらいたいと望みます。この違いに気づいているからこそザ・リッツ・カールトン東京のお客様の70%が日本人になるのです」
世界中からの客が入り交じり、多様なニーズが渦巻くホテルでは、それぞれの要望に応えるのも簡単ではない。わがままと正当なサービスとして要求できるラインは極めて曖昧で、万人に共通するサービスが存在しない以上、ホテル側はどのようにして1つ1つの要求に向き合っているのだろうか。