ミスティーク、神秘体験とは

さらに、リッツ・カールトンについて、伝説めいた逸話がファンの間でまことしやかにささやかれている。

東京ミッドタウン上階という立地に加え、建物内のロビー、コンシェルジュ、客室、レストラン、プールなどの施設がコンパクトにまとまっていることで従業員のコミュニケーションが円滑になったことも高評価の一因だ。

曰く、初めて訪れたにもかかわらず、こちらが名乗る前に名前で呼ばれた。部屋には自分好みの飲料水や新聞がいつの間にか用意されていた。世界中どこのリッツ・カールトンに行っても、自分好みの枕が用意されている……。

「私たちが目指すのは、『リッツ・カールトンでないと駄目』とお客様に思っていただくことです。他の5ツ星ホテルと何ら変わりがないと思われるようでは、リッツ・カールトンの存在意義はありませんから」

そのサービスの実現を可能にするのが、「ミスティーク(神秘性)」というシステムである。

リッツ・カールトンでは従業員が得た顧客に関する情報は、好みの新聞から水の種類、タオルの数や枕の質、起こったトラブルに至るまで、すべて巨大なデータベースに入力される。次回同じ人物がリッツ・カールトンに宿泊する場合、たとえそれが他の国のリッツ・カールトンであっても、同じ情報が共有されるようにするためだ。その結果、客は前回ふと漏らしたような一言が実現されているという「ミスティーク」を体験することになるのだ。

しかし情報さえ完璧であれば、顧客が満足するサービスを提供できるわけではない。

ザ・リッツ・カールトン東京でチーフコンシェルジュを務める住吉真矢子さんは、通常接する宿泊客の約8割が外国人というベテランのコンシェルジュだが、その住吉さんをして、「実は最も意図をくみ取るのが難しい」といわしめるのが日本人客だ。