「退職した身で、とても払えないですよ」

退職して1年ほど経った頃、勤めていた出版社が人手不足に陥り、「再度働けないか」と持ちかけられたという。男性は定年後に大学院に入学して学び直しをしていたのだが、悩んだ末、休学することに。そして今度は契約社員として、定年退職した会社に再就職した。健康保険は任意継続被保険者から、通常の被保険者になった。

そして2年後の昨年秋、ついに2度めの退職をした。休学していた大学院をきちんと卒業したかったため、会社員生活に区切りをつけたかったという。健康保険は再び任意継続を考えていたが、月々の保険料を聞いてびっくり仰天したという。

「毎月9万円台の健康保険料というんです。退職した身で、とても払えないですよ。それで居住地の市役所に行き、前年収入を伝えて国保料を尋ねてみると、6万円ということでした。国民健康保険のほうが、任意継続被保険者よりも安かったわけです。だから国保を選び、昨年秋から今年3月まで毎月6万円ずつ払ってきました。昨年の年収ですか? ちょっと言いたくないのですが……ただ年収1000万円には全くおよびませんよ。普通の契約社員ですから。そんな私にとって任意継続の9万円よりも安いとはいえ、国保の月額6万円の支払いもかなりの負担です」

「退職前は考えなかったが、実際に払ってみると本当にきつい」

男性は白内障の再手術をしたため、現在月に一度、病院で検査を受け、点眼薬などを処方される。その窓口負担額(3割負担)が1万円。つまり国保料と合わせて毎月7万円を医療に費やしていることになる。退職し、現在は無収入であるのだから、たしかに厳しいだろう。

目の検査を受けているシニア男性
写真=iStock.com/FG Trade
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「会社員は退職後の健康保険料の支払いとして、せめて50万円くらいは貯めておいたほうがいいと思います」と、男性は語る。

「住民税なども含め、最初の1年で100万円近い健康保険料、税金の支払いがあっても、半分の貯金があれば何とか乗り切れるんじゃないでしょうか。これは実感としての金額です。もちろん貯金は多いにこしたことはありません。退職金などがあっても、定年退職する頃は親の介護などいろいろお金がかかりますから」

それにしても……、と男性はつぶやく。

「健康保険料や窓口負担金って払う側の裁量がないでしょう。とにかく絶対に納めなければならないもの。退職前は考えもしませんでしたが、実際に払ってみると本当にきつい。30年以上前、国保に加入していた時があるのですが、その時は国保料の負担感はそれほどなかったんです。当時安月給でしたけどね。今は給料が安くても、また平均収入以上を得ていても、健康保険料は誰にとっても高いのではないでしょうか。任意継続も、たった数年でぐっと高くなった印象です。月に9万円台ですよ。いやぁ驚きました」