定置網に獲ってはいけない小型マグロが入ってしまう問題

「定置網」は網を固定して通りがかった魚が入るのを待つ漁業である。魚を追いかけまわす漁業よりエコだと優等生扱いされていたのだが、ここに小型のマグロが入ってしまうことから問題児となった。「定置網を外せ」と警告しても、漁業者側は「マグロを狙っているのではない。他の漁獲もあるから外せない」と抵抗する。

曳き縄のように初めから小型のマグロを狙う漁業なら、漁獲割当に達したら漁獲を停止させれば良いのだろうが、狙ってもいないのに入ってきた小型マグロのために10数人もの従業員を抱え何10種類もの魚を水揚げする定置網漁業を停止させられるのは納得がいかない、ということである。小型マグロの漁獲制限はよほど深刻なようで、2023年4月からは遊漁によるメジマグロの釣りまで禁止となった。

クロマグロポスター
出典=水産庁「クロマグロポスター

マグロの3つの市場「高級料理」「大衆向け」「養殖用」

クロマグロには3つの市場がある。順に見て行こう。クロマグロは約3年で30kgまで成長し再生産可能となるため、30kg以上のマグロを成魚、それ以下を未成魚という。成魚になった国産クロマグロは豊洲をはじめとする消費地卸売市場を経由して高級料理屋へ行く。これが1つ目の市場である。

東京・豊洲市場、2019年
写真=iStock.com/mizoula
東京・豊洲市場、2019年(※写真はイメージです)

一方、メジマグロとかヨコワと呼ばれる未成魚には食用と養殖用の2つの市場が形成されている。未成魚は成魚よりキロ当たり単価が低いが、クロマグロの味はする。そのため、知る人ぞ知る安価なご馳走として定着していた。ところが2013年、当時水産庁の次長だった宮原正典氏は、「メジマグロを食べるのをやめよう!」とメディアを通じて消費者に直接訴えかけた。当時、漁獲規制はまだ導入されておらず、価格メカニズムも逆方向――成魚より安いからもっと食べたい――にしか作用しないなか、単刀直入に呼びかけたのである。

この訴えは、漁業者と消費者の間の情報の非対称性を解消する役割を少しは果たしたのではないか。漁業者はクロマグロ資源が減少していることも、未成魚を獲りすぎると将来の資源に悪影響を及ぼすことも知っている。ただ、自分だけが獲り控えても他の漁業者が獲ってしまうから、目の前にあれば獲るのである。こうして共有地の悲劇は起こる。