『刑事コロンボ』を寝室で流す理由

DJという職業柄、若いときは本当に不規則のお手本のような生活を送っていました。夜はDJとして朝までクラブで仕事。DJをやりながらTRFの活動も行っていたので、日中にも仕事がある。朝も夜も関係なく、寝られるときに寝られればいいやと、勢いだけで暮らしていた時期が長く続いていました。それこそ、朝起きて、その日動ければ健康だと思っていたんです。疲れているときは栄養ドリンクやエナジードリンクで無理やり目を覚ましたりもしていました。

DJ KOOさん
写真提供=エイベックス・マネジメント
DJ KOO
ダンス&ボーカルグループ「TRF」リーダー、DJ。1961年、東京都生まれ。神田外語学院在学中の80年からDJ活動を開始。92年にTRFを結成。トータルCD販売枚数は2200万枚を超える。

転機となったのは56歳のとき。あるテレビ番組で人間ドックを受診したところ、なんと脳動脈瘤が発覚。すぐに手術が決まりました。頭の半分にメスを入れる大手術で、どれだけ説明を受けても不安を拭えなかったことを鮮明に覚えています。幸い手術は無事に終わり、リハビリの甲斐もあって手術から2カ月後、仕事に復帰しました。

普通に仕事ができたり、生活が送れるのって当たり前じゃない。自分のことだけではありません。手術が必要になったとき、TRFのメンバー、スタッフ、家族にも心配と苦労をかけてしまいました。自分を大切にすることは、仲間や家族を大切にすることと同じ意味なんだ。体と心で実感した私は、生活習慣を大きく見直し始めました。

どう眠るかということも、例外ではありません。30代、40代のころは徹夜が当たり前でしたが、今では毎日8時間を目標にして睡眠を取るようにしています。

睡眠の質を上げるには、就寝の3時間前までに食事を終わらせるのが理想的だと言われています。そこで夕飯の時間は早めて、奥さんと娘の3人でご飯を食べています。私は全くお酒が飲めないので、飲み物は炭酸水や無糖の紅茶を飲んでいます。

食後はウオーキング。自宅の近くにお義母さんが住んでいるので、娘と一緒にお義母さんの家まで歩いて、次の日の朝ごはんなどお弁当を持っていくことを習慣にしています。時間は毎日30分ほど。ちょうどいい疲労感が、良質な睡眠に繋がっているのを感じています。

手術後、最初のころは軽めのランニングをしたり、近くの六本木ヒルズで階段上りを一生懸命やったりしていたのですが、疲れていると今日はやめよう、と続きません。運動は無理なく習慣化できることが大切。お義母さんにお弁当を持っていくのは生活の一部なので、運動を続けるいい習慣になっているなと感じますね。

ウオーキングから帰宅したら、お風呂に入ります。就寝の1時間前くらいかな。シャワーを浴びるだけでなく、5分でも必ずぬるめの湯船に浸かるようにしています。

入浴は体を清潔にするためだけではありません。これから自分は仕事から離れて、睡眠に向かうんだ、あとはリラックスの時間だよと、自分の脳を切り替えるスイッチでもあります。自分はエゴサーチ(SNSなどで自分の評判を調べること)をよくしますし、仕事の連絡も絶えずスマホに入ってきます。ただ、眠る前にスマホを見てしまうと、ベッドに入っている間も仕事のことを考えてしまって、いい睡眠ができなくなってしまいます。お風呂は仕事と全く異なる空間で、スマホも持ち込めない。仕事から自分を引き離すのにすごく役に立つんです。

寝具は一時期、低反発枕などを試したりもしたのですが、地方でホテルに泊まることも多く、毎回持っていくのは大変です。結局、どういう寝具でも寝られるようになりました。ただ、家では奥さんが洗濯してくれている掛け布団が欠かせません。清潔な掛け布団の気持ち良さの中で眠れるのはありがたいですね。

妻と娘、自分は全員同じ寝室で、3つのベッドを並べて寝ています。ほかのかたの寝室と違うのはテレビ。暗くして、無音のほうがよく眠れるという意見もありますが、自分はテレビをつけておかないと眠れないんです。音楽を聴いている時間がどうしても長いので、耳に音が残ってしまうんですね。ほかに音がないと落ち着きません。そこで毎晩、切タイマーをセットして、テレビをつけたまま眠ります。

テレビで流すのは決まって昔の海外推理ドラマ。『刑事コロンボ』『名探偵ポワロ』『シャーロック・ホームズの冒険』……どのシリーズも繰り返し観て、犯人は全部わかっているので、推理をして頭を使うことはありません。銃をバンバン撃ち合うアクションシーンはなく、大人な雰囲気の会話劇がリラックスするのにちょうどいい。吹き替え版の声優さんたちが、また落ち着いたいい声なんです。

大好きなパンを朝食で食べた後、自宅から5分ほどのところにある個人の仕事場に歩いて移動し、また一日の仕事が始まります。たった5分ですが、毎日の天気や季節の変化を感じられる瞬間でもあります。