試験対策のための英語は忘れてしまう

グローバル化の進展で、英語学習の重要性が声高に叫ばれているにもかかわらず、日本ではなかなか英語の習得がうまくいかないようです。学習環境が整っていなかったり、途中で挫折して英語が嫌いになったりしてしまいます。大学教員として英文学を講じている私としては、そうした現状が歯がゆい限りです。

英語の学習がうまくいかない大きな原因の1つは、学習で使われる素材です。特に問題なのが、素材の中身が学習者にとって「面白くない」ということ。そのせいで、「英語を身につけたい」という人は多いのに、英語を学んでいるうちに、やる気を失ってしまうのです。

この数十年の英語教育を見て皮肉だなと思うのは、学習者に媚びるためなのか、「実用性」やうわべの「楽しさ」に重きを置くあまり、内容が薄い、刺激のない素材が多くなったということです。

たとえば国語とくらべて、英語の教科書に出てくる内容はおそろしく貧弱です。生徒の知性を馬鹿にしてはいけません。高校レベルともなれば彼らはかなりの内容でも理解できます。これは会話重視・実用性重視がたどり着いた「貧しさ」だと思います。

たとえ日本語を第一言語とする人でも、英語を文章として読めばかなりハイレベルのことが理解できるのです。たしかに日本に住んで日常生活で英語のやり取りに接していない人は、オーラルで知的なことを理解するのは初めは難しいでしょうが、それは日本語でも同じです。

日本語でも英語でも、まずは読むことから出発して知的でエキサイティングな内容を受け取る面白さを覚えれば、その先に進もうとするモチベーションも生まれます。

学習内容に魅力がなければ、勉強は続きません。高校時代にシェークスピアの英語の美しさに接して英文学の世界にのめり込んだ私としては、「英語は刺激的で面白く、美しい」ということを、皆さんにわかってもらいたい。

では、英語嫌いの大人にもう一度、前向きに英語を学んでもらうにはどうしたらいいのでしょうか。私がおすすめしたいのは英文の書物、たとえば小説を読むことです。

皆さんも、試験対策で覚えた英単語や英熟語、英文法を、試験後に「きれいに忘れてしまった」といった経験があるかもしれません。単語や熟語をバラバラに頭に入れても、記憶に定着しないのは当たり前。それに比べてコンテクスト(文脈)の中で覚えた言葉は記憶に残ります。単語にしても熟語にしても構文にしても、背景のある文章の中で出合いたいのです。

素材は「内容を知りたい」という刺激を与えてくれるものなら、新聞、雑誌、ノンフィクション、研究論文など何でもいいのです。ただ、小説の場合、ストーリーがあり、興味深い人物が出てきたり完結した作品世界が浮かび上がったりするのでおすすめです。