落ち込むことは決してムダではない

――おふたりとも世界一を目指す過程を体験しているわけですが、そのプロセスにはアップダウンがあるわけですよね?

【EJ】個人、チームともに日々成長を目指しているわけですが、一歩進んだ後に二歩後退するといったことはよくあります。

【柳井】私はカジュアル服で、仕事をやるからには世界一を目指そうと目標を定めました。振り返ってみると、ずっと順調だったということはありません。失敗が重なるときだってあります。

――失敗を認めなければならなくなったときには、どんなことが必要でしょうか。そういうときこそ、動揺せず、冷静な判断を下さなければならないのでしょうか。

【柳井】そりゃ、いろいろな感情が湧きますよ。最初にも話したけれど、経営者は居心地が良いなんてことはないし、人間、不動心なんてものはない(笑)。でも、失敗や動揺も受け止めなければいけない。それを乗り越えながら仕事をしていくのが人間なんです。

【EJ】選手、チームの成長を促すうえで、「落ち込むこと」が必要になる時期があります。人間、そして組織にはどん底を経験した後に、立ち直る力、「レジリエンス」が潜んでいます。私のコーチング経験では、落ち込む幅が大きいほど、レジリエンスの力も大きくなります。コーチは、その力を発揮できるようにうまく誘導しなければなりません。だからこそ、落ち込むこと、そしていろいろな感情が湧くことは決してムダではないのです。

エディー・ジョーンズ

ワールドクラスの選手が少なくとも5人は必要

――これから27年のW杯オーストラリア大会に向けて、いろいろな起伏がありそうですが、エディーさんはこれからどんな日本代表をつくっていこうと考えていますか。

【EJ】昨年の大会で、日本代表は良いチームではありましたが、「格上」の相手に対して脅威とはなりえませんでした。再び、日本が上位国に対して危険なチームとなり、W杯でコンスタントにベスト8に進出できるようにしていくつもりです。

【柳井】ベスト8じゃなく、ナンバーワンを目指してくださいよ(笑)。

【EJ】(笑)。いま、日本は重要な局面に立たされています。19年のW杯で日本代表は誰からも愛されるチームになりましたが、いまは停滞を余儀なくされています。次の4年間で再び上昇するストーリーを書けるのか、それとも停滞し続けるのか……。強固な意志を持って改革を進めなければいけません。

【柳井】世界一になるためには、超一流の選手がどれくらい必要なんですか。

【EJ】ワールドクラスの選手が少なくとも5人は必要です。鍵となるポジションに危機的状況を救ったり、試合の流れを変えられる選手がいなければなりません。

【柳井】まずは人材をそろえる。そして、次に必要なのがコンセプトですよね。

【EJ】最初の記者会見で掲げたのは「超速ラグビー」。プレーのスピードはもちろん、判断するスピード、瞬間的な判断ができるチームを目指します。

【柳井】それは個人の判断の速度を上げるということですか?

【EJ】いえ、集団として瞬間的に「同じ絵を見る」ことができるようにしていきます。W杯で優勝した南アフリカ、準優勝のニュージーランドは全員が絵を共有できているので判断の速度が速い。これから日本ラグビーで必要なのは、システム全体のスピードを上げることです。これは代表だけではなく、高校から大学、そしてリーグワンまで連携して進めていくつもりです。

【柳井】それだけの人材は日本にいるんですか。

【EJ】昨年のW杯を戦ったチームから、良き伝統を引き継げる人材を残しつつも、やはり日本ラグビーの未来を考えると若手を探さなければなりません。高校生、いや、中学生でもそれにふさわしい人材がいれば特別に鍛えるプログラムを用意するつもりです。