自分の能力や仕事の範囲を限定しない

――柳井さんは「負けず嫌いじゃないと一流になれない」とおっしゃっていますが、自分の仕事にそれだけのプライドを持ってほしいということですね。

【柳井】世界で一番を目指すというのは、自分の人生に価値を与えることじゃないですか。私が思っているのは、日本人には働くことの「特別感」を実感してほしいということなんです。一度きりの人生なんだから、夢を抱いて、仕事にチャレンジすることは素晴らしいことですよ。

【EJ】個人だけではなく、自分の仕事に社会的な価値があると意識すれば、仕事への取り組み方も変わってきますからね。

【柳井】だからこそ、コーチの言葉を待っていてはいけない。自分のものとして勢いを持って仕事を進めていくことがすごく大切なんです。

【EJ】いまの柳井さんの話でとても印象的だったのは、特別感という言葉です。これから日本代表は変わらなければいけない。選手たちには、他人事ではなく自分のものとして代表の活動に参加してほしいのです。

【柳井】100パーセント、ラグビーに身を捧げてほしいということでしょう。

【EJ】その通りです。日本代表はこの10年間で、素晴らしい価値を日本の社会に提供してきました。15年のW杯では南アフリカに勝って世界を驚かせた。そして19年の日本大会では、日本全体を元気にしましたよね? いま、日本代表は国民のみなさんから期待される対象になったんです。

【柳井】それは本当に素晴らしいことですよ。

2月に行われた代表候補合宿で京都産業大学の高木城治(右)に声をかけるエディーHC
写真=スポニチ/アフロ
2月に行われた代表候補合宿で京都産業大学の高木城治(右)に声をかけるエディーHC。合宿に参加した34人の選手のなかには現役大学生9人が含まれ、若い世代の発掘・育成を狙う。

「日本人だからこれくらいが限界」という発想が根強くある

【EJ】選ばれたメンバーには、その期待に応える義務があり、責任があります。昨年のW杯のように「負けたけれど善戦した。頑張った」ということで満足していてはいけません。

【柳井】満足というのは、成長を阻害する原因になりかねない。日本人は目の前にチャンスがあるにもかかわらず、自分の仕事、能力の範囲を限定してしまうことが多いんです。

【EJ】少なくとも、ラグビーの世界では「日本人だからこれくらいが限界」という発想は根強くあると思いますね。いま、国内のリーグワンには世界の超一流選手が集まっています。いま、リーグワンのトップ3の選手を挙げるとするなら、東京サンゴリアスのチェスリン・コルビ(南アフリカ)、ブレイブルーパス東京のリッチー・モウンガ(ニュージーランド)、静岡ブルーレヴズのクワッガ・スミス(南アフリカ)の3人です。コルビは身長172センチ、モウンガは176センチ、スミスも180センチしかないんです。

【柳井】日本人とそれほどサイズが変わらないじゃないですか。

【EJ】その通りです。日本人と同等のサイズの選手たちが、世界最高峰のプレーを見せてくれている。日本人はサイズを言い訳にはできないんです。日本人の仕事のパフォーマンスがなかなか向上しないのは、自己規定する傾向が強いせいではないかと思っています。

東京サンゴリアスに所属するチェスリン・コルビ
写真=西村尚己/アフロスポーツ
東京サンゴリアスに所属するチェスリン・コルビ。日本人と近い体格ながら世界的なスピードスターとして知られ、南アフリカ代表のワールドカップ優勝に貢献した。

【柳井】日本人は自分を特定の枠にはめがちだと見ているわけですね。仕事を進めるにあたっては、自分が一流になれることを発見することが大切ですよ。エディーさんは世界とどう勝負するかを考えているわけだけど、一人一人が日本人の強み、そして自分の強み、弱みを考えていかなくちゃいけない。私が見てきた限りでは、日本人が得意なのは防御です。すぐに防御に回りがちだと思う。

【EJ】トップになったら、それを守ろうとする意識が強いわけですね。

【柳井】日本人は防御は上手です。ただし、既存の組織を壊してさらに強固な組織をつくろうという発想には至らない。守ることを優先すると、アイデアも内向きになってしまい、職場で「いちばん最後まで残る人が偉い」という発想がまだ残っていたりするんです。

【EJ】中学や高校での長時間練習と似ていますね。リーダーは長い時間生徒を拘束することで支配しようとする。それによって、生徒たちから集中力を奪っていることに気づいていません。