「勝ちたい」ではなく「勝つ」前提で考える

【柳井】それはダメですね。同じ仕事をするんだったら、短い時間で仕上げたほうが偉いよ(笑)。超一流の人間というのは、フォーカスすべきエリアを決めたら、集中的に時間を投下できる人です。

【EJ】日本人は時間のメリハリをつけるのが得意ではないように思います。それは学校教育の影響があるかもしれませんが、時間の使い方を変えるだけで個人の能力は大きく変化する可能性があります。周囲に評価されるために職場に残ることよりも、「オウン・フェイス」、自分の顔が見える仕事をするべきです。

日本社会で異端と見られたとしても、世界で成功すればいいんです

【柳井】だから、私は日本人には逸脱した仕事をしてほしいと思う。日本社会では異端だと見られたとしても、世界で成功すればいいんだから。さっき、エディーさんはベスト8を目指すと話したけれど、私はベスト8じゃダメだと思ってるんですよ。ベストワンにならないと、逸脱できないと思うんだ。選手のみなさんにはそうした意欲、気概を持ってほしい。

【EJ】とてもよく理解できます。そうしたユニークな人材を育てつつ、私は日本人が持っている長所、「協調性」を大切にしたいとも思っています。

――逸脱できる能力を持つ人間と、協調性という要素は、一見、相反する要素に思えますが。

【EJ】今回、私が日本代表のメンバーに求めている要素のひとつとして挙げているのが「他の人と一緒に仕事をするのが好きな人間」です。自分の成長を他人の成長へと結びつけられる人間がいれば、1+1は2ではなく、3にも、4にも変化していきます。

【柳井】足し算ではなく、掛け算の媒介となれるような人材ですね。かつてサッカー日本代表の監督を務めたジーコは「チームとは『鎖』のようなものだ」と話していました。一人一人が連環して一本の鎖をつなぐ。自分自身という環を強くし、さらにコネクトする部分を強化する。個人の能力を高めつつ、全体のために仕事をする意識を持った人材が必要ですね。

柳井正

【EJ】オールブラックスのかつてのキャプテンで、リッチー・マコウという選手がいました。彼は11年と15年のW杯で連覇を達成したチームのリーダーです。彼は15歳のときに「歴史上、もっとも偉大なオールブラックスの選手になる」と志し、ティーンエイジャーの頃からプロになって以降もずっと、目標を紙に書いていたといいます。実際に彼はキャップ数(テストマッチを戦った試合数)で、オールブラックスの選手として史上初めて100キャップを達成したのです。

【柳井】やっぱり、書くことは大事ですね。彼は15歳のときに、言葉にすることで、ターゲットに到達するための道筋がクリアになったんでしょうね。

【EJ】その通りです。それだけでなく、彼とプレーした選手たちに話を聞くと、「リッチーは他の選手たちが成長するのを手助けする。彼がプレーするチームは、自然とパフォーマンスが上がる」というんです。

【柳井】やっぱり、集団としての「行き先」を理解している人が必要なんですよ。良いリーダーとは「勝ちたい」じゃなく、「勝つ」ことを前提として、集団を成長に導いていける人なんですよ。

【EJ】世界的に成功したラグビー選手たちは、例外なく誰も見ていないところで努力をし続けられる人間です。そして個人の成長を、チームの成長へと結びつけられる。

【柳井】ビジネスの世界と一緒ですね。