狭くても座りたいか、少なくてもゆったり座りたいか
ドア横のスペースを削って座席を最大限、確保する考えもあるが、出入口周辺が狭いと、ドア横に陣取る人がはみ出て乗降がスムーズにいかず、遅延の原因となるので避けたい。そのため7人掛けロングシートの座席幅は46~47cmが限界とも言われている。
座席定員の確保と逆行するが、座席定員を減らすことで座席幅を拡大しようという動きもある。例えば2022年導入の都営地下鉄三田線「6500形」、横浜市営地下鉄ブルーライン「4000形」、今年秋にデビュー予定の福岡市地下鉄空港線・箱崎線「4000系」はロングシートの定員を6人に減らし、座席幅を47.5~48cmに拡大した。
また日中は普通列車、朝夕はライナーとして運用する、ロングシートとクロスシートを変換可能な車両では、2人掛けのシートが3つつながってロングシートを構成するため、必然的に定員は6人になる。
どちらも座席数の確保より質の向上を優先した形だが、狭くても座席が多いほうがいいのか、定員は少ないがゆったりした座席がいいのか、利用者の判断はどちらになるだろうか。
もっとも座席の機能という点だけで見れば48cmはオーバースペックだ。東海道新幹線の「N700S」の座席幅は3人掛け中央席が46cm、両端が44cm、航空機のエコノミークラスが44~48cm。つまり、体を座席に収めるだけなら十分の大きさがある。
「大きい」でも「脚を広げる」でもない意外な問題点
問題は体の幅ではなく肘にある。椅子に座って自然な体勢をとり、そのままスマホを操作してみる。すると肘は肩幅よりも外にあることがわかる。というより、よほど意識して肩をすぼませて座らない限り、人間はそのような姿勢になる。
新幹線や航空機を例に出したが、これらは座席幅に加えて肘掛け分5~6cmが加わる。また乗客は窓側、通路側に体を傾けて距離をとれるので圧迫感はなく、数字以上に広く感じることだろう。
通勤電車のロングシートの座席間に手すりは付けられないが、肘に着目した座席形状の検討はされている。ロングシートで一番人気があるのは体を預けられる両端の座席だが、利用者が身体を傾けることで隣席との間に少しでも余裕が生まれる。
昔はパイプの仕切りがあるだけで、ドア横に立つ人が寄りかかってカバンが当たるなどトラブルが絶えなかったので仕切り板がつくようになった。当初は絶壁のものが多かったが、体にあわせた凹みが設けられ、2016年から大阪環状線で運行しているJR西日本「323系」は仕切り板に肘掛けを設置している。
ミリ単位のスペースをめぐる要望と改善の攻防戦だが、最終的には空間を共有する乗客同士の気遣いだ。これまで座席マナーは座り方、足の置き方に注目したものが多かったが、肘に関する呼びかけも始めてみてはいかがだろうか。