幅はたった3cm、でも平均体重は15kg近く増加

1910年代から1990年代までざっくりと振り返ったが、座席拡大の背景には言うまでもなく日本人の体格向上がある。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によれば、日本人30代男性は半世紀で平均身長は10cm、平均体重は15kg近く増えていることがわかる。

1950年 160.6cm 55.3kg 40.2cm
1960年 162.0cm 56.5kg 40.5cm
1970年 163.5cm 59.6kg 40.9cm
1980年 166.1cm 62.4kg 41.5cm
1990年 168.7cm 65.3kg 42.2cm
2000年 170.6cm 68.2kg 42.7cm
2010年 171.5cm 69.6kg 42.9cm

人間のうち最も横幅が大きいのは肩だ。肩幅を身長の0.25倍で概算する人間工学に倣うと、1950年は40.2cmだった肩幅が1980年に41.5cm、2010年には42.9cmとなった。

平均体重が身長以上に伸びていることをふまえると、実際は縦にも横にも大きくなった人がもっといるだろう。その結果、隣の人と距離をとって座るようになり、7人掛けの座席に6人しか座れなくなってしまう。

1980年代以降、通勤の長距離化が顕著になると、座れるか否かが死活問題となり、もう1人座れるはずなのに詰めてくれないストレスは大きなものになる。かつては電車に乗り込めるだけで御の字という超混雑だったが、乗客は質を重視するようになった。鉄道事業者が「長い座席は7人掛けです。譲りあっておかけください」とアナウンスするだけでは問題は解決せず、不満は高まっていった。

1995年に発行された中央労働災害防止協会の機関誌『安全』によれば、千葉工業大学工学部菊池安行教授は1980年代、人間工学の行動分析を用いて定員着席を実現する方法を鉄道事業者と共同研究したという。

座席をこれ以上拡大するのは難しい

人間はまずロングシートの両端に座る習性がある。次の人はすでに座っている人の隣は避けるので必然的にロングシートの中間に座るため、その両脇に2人ずつ座れば7人掛けは実現する。この習性を利用して、中央の1人分だけ色を変えた座席を導入した。

そのほか、ロングシートの7人分それぞれに模様を入れて着座位置を促したり、ロングシートを3人・4人に分割する仕切りを設置したりする工夫が行われたが、決定打となったのはJR東日本の「209系」だ。

それまでのロングシートは平らな長椅子だったが、209系は1人ずつ座面がへこんだバケット型のシートを採用。さらにロングシートを2人、3人、2人で分けるスタンションポールを設置し、徹底的に7人が座れるように誘導した。今までにないデザインは利用者からも好評で、私鉄にもすぐに広まり通勤電車のスタンダードになった。

これで定員着座の問題はおおむね解決したが、しっかり7人が座るようになった結果、今度は座席の狭さが気になってくる。座席幅が43cmから46cmに拡大した現在でも座席に関する不満は絶えないが、これ以上座席を拡大するのは困難だ。電車のドアは乗降を均等にするため、また近年はホームドアとの整合上、位置と間隔が決まっており、座席を広げていくと収まらなくなってしまう。