子役時代に才能を見いだしていた天海祐希
目に浮かぶのは、直球で飾らずに悩みを相談する沙莉の姿だ。「私は誰にでも自分の情報を全部言っちゃうタイプ」と自覚しているそうだが、そんな素直な子が諸先輩方に愛されないわけがない。天海祐希も子役時代の沙莉の才能と努力を認めた一人である。
「あなたはカメラが自分に向いていない時でも常に気を抜かずにお芝居をしてる。当たり前かもしれないけどそれができる子は意外と少ないの。
私は宝塚っていうところでお芝居をしていたの。端っこで踊ってる時でもお芝居をしてるときでも意外とね、見てくれてる人はいるのよ。自分なんて誰も見てないって思う時もあるかもしれないけど、そんなことない。この先何があってもどっかで誰かが見てるし、必ず誰かが見つけてくれるし認めてくれるから。
あなたはずっとそのままでいてね。それ以上でも以下でもない。そのままでいて」(前掲書)
天海姐さん‼ 惚れ直しちゃうぜ。小学生の沙莉の才能を見いだす慧眼に唸るし、その言葉をちゃんと覚えている沙莉も沙莉ですごい。先輩の言葉を人生の糧にする生真面目さ。その謙虚な姿勢が今につながっているのだろうと思わせる。
大成する女優に共通する「ある役柄」
おそらく知名度が爆上がりしたのは、朝ドラ「ひよっこ」(2017年)の米屋の娘・安部米子役だ。ヒロインの幼馴染・三男(泉澤祐希)に恋をして、ストーカー化したり、妨害作戦を敢行したりで、茶の間をおおいに沸かせた。
斉藤暁との親子関係に説得力をもたせただけでも優勝だが、米屋の娘で米子という安易な名前が嫌で、さおりと名乗るあたりでざわつかせた。善意と平穏と美談で埋め尽くされた世界にひとさじの毒を盛る、とても重要な役でもあった。
リアリティでいえば、「この世界の片隅に」(2018年・TBS)でも本領発揮。戦時中、男手が足りずに仕事が多くなった女たちの本音と愚痴と恨み節を、沙莉と尾野真千子が牽引。ご存じの通り、「虎に翼」でナレーションを務める尾野真千子とのコンビは最強である。画面上に一緒に映らなくとも、一心同体の妙。
また、語彙力の低いヒロインや回転の遅いヒロインの横にいて、助け船となる毒を吐いたり、気まずい空気を切り裂く女友達の役も絶妙。そもそも「抜群にしょっぱい女友達役」を完璧にこなせる女優は大成する、と思っている。
たとえセリフがなくても顔だけで塩対応を体現できる女優、安藤サクラや江口のりこ、木南晴夏、吉田羊に安藤玉恵……とあげ始めたらキリがないが、共通しているのは主役をたてつつも脇をしっかり固め、脇役の半生をちゃんと想像させてくれるところだ。しょっぱさは女優の必需品、リアリティをもたらす最大の武器でもある。