コンプレックスだった声

「REPLAY & DESTROY」(2015年・TBS)では、主役の山田孝之とつるむ女子高生(小林涼子)の友達役。現在「虎に翼」で共演している小林涼子も異様にはっちゃけた適役だったが、沙莉は細かい顔芸(舌で頬を内側から膨らまして、したり顔)や爆速ツッコミ、ひとりダチョウ倶楽部ボケなど、芸人顔負けの沙莉劇場を開幕していた。

また、「となりの関くんとるみちゃんの事象」(2015年・MBS)では1話ゲストだが、強烈な役で爪痕を残した。さしてモテなさそうだが「女の色気考」について講釈垂れる涼子先輩。なんなら演技指導まで始めるのだが、どう考えても間違った色気考がおかしくて。

役になりきり、真剣にふざける妙技を10代で会得しているんだから、そりゃもう虜ですよ。それでこそ女優、と思うわけですよ。

ただ、エッセイによれば、声がコンプレックスになった時期があったようだ。幼い頃から尊敬している3歳上の姉と同じ声で、沙莉は誇りに思っていたという。それでも思春期にはオーディションに落ち続けて、ネガティブ思考に陥った。

「ただオーディションで面白がってはもらえるものの 声で落とされることも増えていった。声が落ち着いちゃってる、とか 声が老けてる、とか 大事なんだなぁ、声って」(『【さり】ではなく【さいり】です。』(KADOKAWA)より)

女優・藤田弓子からのひと言

また、大好きな監督のアニメ声優オーディションを受けたが、落選。理由は「思っていたよりつまらない声でした。特徴も面白みもない。残念です」と聞かされたそうだ。

録音スタジオのマイク
写真=iStock.com/Oleksandr Filon
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主演したドラマもどうやらこきおろされたようで、悔しい思いを綴っている。それが、ステップファミリーになった姉(佐久間由衣)と恋に落ちるレズビアンのドラマ「トランジットガールズ」(2015年・フジ)である。

レズビアンは日本のテレビ局が最も尻込みするテーマであり、沙莉が既に完成形に近いコメディ筋肉を封印して挑んだ意欲作だ。声に言及した感想も寄せられたそうで、天性の声を誇れなくなり、「本気で邪魔だった。」と綴っている。

そんな沙莉を救ったのは女優の大先輩・藤田弓子の言葉だったそう。

「あなたその声は本当に宝物よ。神様がくれた宝物。お芝居をしていく上でね、声ってとっても大切なのよ。でもどんなに欲しくても声だけはね、手に入らないのよ。自分が求めてるものは。あなた自身がどう思うかはわからないけれどとても説得力のある素敵な声よ。大事にしてね」(前掲書)

弓子の優しさがじんわり伝わってくる。この言葉のおかげで、沙莉は自分の声を嫌になってから初めて肯定できた気がしたと綴っている。