「なぜ、あんなことをしたのか」は限りなく増幅する

明日を耐え抜くために必要なものだけ残して、あらゆる過去を締め出せ。

医学者 ウィリアム・オスラー

他人からひどいことをされれば、嫌な思い出になります。しかし、嫌な思い出ができる原因は、他人にだけあるのではありません。

若気わかげの至りで人の心を傷つけてしまった」「あんなに変なことを言ったり、したりした自分が恥ずかしい」といった自己原因も多いのです。だから、よけいに苦しいのです。

人間は、最初は楽しいことを思い出しても、すぐに「そういえば、あいつは俺を裏切った」などという不快な記憶が呼び覚まされることがしばしばです。

そこに、「自分はなぜ、あんなことをしたのか」という自己批判がからみます。こうして、嫌な感情が限りなく増幅していくのです。

偉人や成功者にも過去を苦しむ人が多いと知る

このような心理に対して、「過去を変えることはできない。だから気にしないほうがいい」とアドバイスする人がいます。しかし、過去は変えられないことなど、誰でも知っています。それでも気になるのが人間なのです。

むしろ、偉人や成功者にも過去を苦しむ人が多いと知ることのほうが、よほど心をラクにしてくれるのではないでしょうか。

成功者は立派な人生観を持ち、それが正しかったから成功したと考えています。つまり、彼らは成功した時点の人生観から、若く未熟だった頃の自分を思い出すのです。

それは、さぞかし苦しいことでしょう。努力して立派になればなるほど、昔の自分が許せなくなるというのは、なんとした矛盾かと思います。

外を見ている老人
写真=iStock.com/PonyWang
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ウィリアム・オスラーは、伝説的な医学者です。「オスラー先生が病室に入ってくると、患者はみな治った気になり、元気になってしまった」と弟子が書き残しています。

彼はカナダ生まれで、英国、ドイツ、オーストリアに留学します。そして、カナダのマギル大学教授、米国ペンシルバニア大学教授、米国ジョンズ・ホプキンス大学教授、英国オックスフォード大学教授を歴任しました。

医の倫理を説き、医学教育の基礎を築いた功績も輝かしいものがあります。