ドラマ「ブキウギ」では笠置シヅ子をモデルにした主人公のスズ子が「娘を誘拐して殺すぞ」と脅されるエピソードが描かれた。当時の資料を調べたライターの田幸和歌子さんは「実際にあった事件を基にしているが、犯人像はまったく異なる。1954年当時、笠置を脅迫して逮捕されたのは、30歳の無職男性で、その動機もドラマより軽いものに思える」という――。

8歳になった娘の誘拐未遂事件は笠置の実話がベース

ドラマ「ブギウギ」第24週では、8歳になった愛子(このか)の誕生日に、スズ子は近所の主婦や子どもたちを自宅に招いて、パーティーを開いた。愛子に友だちを作るためだったが、愛子は有名人の子として学校でいじめられており、反抗的な言動が増え、スズ子は子育てに悩んでいた。

そんなある日、スズ子のもとに電話がかかってきて「娘を誘拐されたくなければ、金を出せ」と脅される。ショックを受けたスズ子は警察に通報し、刑事の高橋(内藤剛志)らが自宅にやって来て、捜査を開始する。

実は、愛子が仲良くなった貧しい少年の父親が、脅迫電話の犯人だった。父親は男手ひとつで息子を育てており、病気で働けない状況。そんなとき少年が愛子の誕生日パーティーに招かれ、父親もスズ子たちの優雅な暮らしぶりを見て犯行に及んでしまったという経緯がわかり、その事件を介して母子の愛情が再確認される流れが描かれた。

少々突飛にも思える内容だったが、実はこの誘拐未遂事件は、実際にスズ子のモデル・笠置シヅ子の身に降りかかった実在の事件だったというから驚く。

究極の格差社会、戦後に財を成した芸能人は狙われていた

敗戦から10年、1950年代半ばになると経済成長に伴い、映画などの娯楽産業も盛んになる。そんな中、53年に当時16歳だった美空ひばりが建てた“ひばり御殿”をはじめ、スターの豪邸が次々に建てられ、メディアで披露された。

笠置の邸宅が世田谷に建てられたのは1951年。しかし、スターの豪邸というイメージよりは、愛子のモデルとなった娘・ヱイ子への深い愛情が詰め込まれたものだったようだ。

雑誌『映画ファン』(1951年8月14日号)の「わが家は楽し」というページを見ると、笠置が娘のヱイ子と大きな鏡の前でオシャレをしていたり、フランス人形やアップライトピアノがあったり、柵によじ登るヱイ子を笠置がうれしそうに見ていたり……。ドラマに出てくるエントランスの柵そっくりの写真もあり、ドラマの美術スタッフがいかに丁寧な仕事をしているかがわかる。

事件の翌年の笠置シヅ子
事件の翌年の笠置シヅ子(写真=『アサヒグラフ』1955年12月7日号/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons

また、雑誌の紹介文では「誰でも表札に目を見張る」「薄いグリーンに赤い屋根白い壁、モダンで明るいこのお家の一番よい位置に笠置さんはエイ子ちゃんのお部屋を作って、その愛情の程を思わせる設計である」と記している。

その一方、ガレージはあるが、自動車はまだなく、「まだまだ、そこまで買えませんよ。だからせめて車庫だけでも、と思ってね」というコメントが印象的だ。