「ブギウギ」でもヒロインの渡米前後が描かれたが…
ドラマ「ブギウギ」(NHK)第23週では、福来スズ子(趣里)にアメリカ公演の話が舞い込む。羽鳥善一(草彅剛)は乗り気だが、スズ子は娘・愛子(小野美音)と4カ月も離れ離れになることを心配し、愛子もアメリカに行かないでほしいと泣きじゃくる。
スズ子は悩みに悩んで、麻里(市川実和子)に相談。同じ母親としてスズ子の葛藤に理解を示す麻里に背中を押されたことで、アメリカ行きを決意し、留守の間に愛子が伸び伸び遊べる庭つきの家に引っ越すことを決める。そして渡米当日、泣き叫ぶ愛子に、歌手としてもっともっと大きくなりたいのだと伝え、思いを振り切るように家を出た。そして、得難い経験を重ね、予定どおり帰国している。
ドラマでは「親子の愛情」を強調し、渡米の理由を同じ母親である麻里の助言に求め、肝心のアメリカ公演の描写はすっ飛ばして、スズ子の父・梅吉(柳葉敏郎)との「父と娘の愛情」の物語につなげている。ドロドロした部分に念入りにフタをして、人情物語に仕上げる「ブギウギ」らしい作為的な展開ではある。
なぜなら、スズ子のモデルとなった笠置シヅ子の渡米は、相当な混乱を伴ったものだったためだ。
本当は美空ひばりに先を越されてしまったアメリカ公演
昭和25年(1950)。俳優・山本富士子が読売新聞社・中部日本新聞社・西日本新聞社主催の第1回ミス日本となり、翌51年にミス日本として公式渡米している。この頃、芸能・文化界隈ではアメリカに行くことがある種の箔付けになっていたらしい。
笠置と羽鳥のモデル・服部良一がハワイをはじめとするアメリカ各地に興行に行ったのも、50年。「服部・笠置ブギウギコンビ」というキャッチフレーズで公演をする予定だった。しかし、その1カ月前に渡米を決めたのが、美空ひばり一行だった。
1914年生まれの笠置と、1937年生まれのひばり。ひばりが笠置シヅ子のモノマネで頭角を現したこと、ひばりが笠置の歌を歌うことを笠置から禁じられたことなど、この20歳以上年齢差のある二人の「因縁」と「確執」はしばしば語られてきた。ドラマではひばりをモデルにしたと思われる水城アユミ(吉柳咲良)が今後、登場するが、帰国後に初めて会うという設定に。しかし、実際のところはどうだったのか。