60歳以上で1.7倍になる睡眠の病気

また、年とともに増えてくる病的な睡眠障害に閉塞へいそく性睡眠時無呼吸症候群と不眠症があります。

睡眠時無呼吸症候群とは寝ている間に無呼吸と低呼吸を特徴とする病気です。これには閉塞性睡眠時無呼吸症候群といって空気の通り道がふさがってしまうことで無呼吸と低呼吸が起きるものと中枢性睡眠時無呼吸症候群といって空気の通り道が塞がっていないのに、無呼吸と低呼吸が起きるものがあります。

過去の報告ではこの睡眠時無呼吸症候群は60歳以上で1.7倍になると言われています(※14)。この睡眠時無呼吸症候群では寝ている間に呼吸が止まってしまうため脳に酸素が届かなくなり、日中の眠気やいびき、朝の頭痛だけでなく、高血圧症、心血管病、脳血管障害、不整脈や突然死とも関係があると言われています(※15)

この睡眠時無呼吸症候群の検査は寝ている間に特殊な機械をつけるというもので、専門施設でないと実施できないことが多いため見逃されやすいですが、治療によって日常の生活の質や高齢者の場合は認知機能の改善が期待できる可能性が報告されている(※16)ため、検査の重要性は高いです。

日中の眠気が強い場合などはぜひ検査を受けていただきたいです。最近は郵送などで対応し、自宅でも実施が可能なところもあります。

不眠症も問題となることが多いです。これにはさまざまなことが原因としてあげられます。例えば関節などの痛みで夜が眠れなくなったり、前立腺肥大によって頻尿となり尿意が増えたり、認知症・うつ病・不安などの精神疾患、友人や家族との別れなどの心理的な要因など、それぞれの理由によって対応法は異なります。

ベッドに横たわる不眠症の男性
写真=iStock.com/Filmstax
※写真はイメージです

原因を調べながら、場合によっては睡眠導入剤を使うこともありますが、最近の睡眠導入剤は今までの薬剤より安全な薬剤が増えていますので、ぜひ病院でご相談ください。

他にもレストレッグス(むずむず脚)症候群、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害など高齢者が起きやすい睡眠障害がありますので、睡眠不足や日中の眠気で悩んでおられる人はぜひ病院を受診してください。

睡眠不足はうつ病や不安に似たような症状が出る可能性

睡眠不足は体に悪そうだというのは昼間のパフォーマンスが落ちて体がだるくなることから多くの人に納得していただけるかと思います。さて、どのように睡眠不足は健康に悪いのでしょうか? 具体的に、解説していきます。

睡眠不足による不健康には急性効果と慢性効果があります。急性効果は睡眠不足だった翌日どうなるかというものですね。具体的にはいろいろあります。1つ目は認知障害(※17)です。わかりやすく言うと判断力、注意力、警戒心の低下ですね。

他にも知覚、記憶、実行能力などにも影響があります。また、睡眠不足はうつ病や不安に似たような症状が出る可能性があります(※18)。そして私も睡眠不足の時に経験があるのですが、マイクロスリープといって起きている時に急に数秒間寝てしまう現象が起きやすくなります。

もちろん運転中などの場合には非常に危険です。とくに車の運転中など身体を動かすことがあまりない時などに急に強い眠気を感じると重大な事故に繋がります。

そして慢性効果についてです。現在多くの研究で、睡眠不足が積み重なった結果として、事故や死亡のリスクの増加、心理的および身体的健康への悪影響があることがわかってきています。中国で2017年に発表された研究(※19)を紹介します。

20~80歳の成人で肥満ではなく糖尿病や高血圧症などのメタボリックシンドロームでない16万2121人を対象に、1996年から2014年まで睡眠時間とメタボリックシンドロームなどの病気の発症の関係について調査を行ったところ、6〜8時間の睡眠時間と比較して、6時間未満の睡眠時間だと肥満のリスクが12%増加し、空腹時血糖値の上昇リスクが6%、高血圧のリスクが8%、HDLコレステロールの低下リスクが7%、高トリグリセリド血症のリスクが9%、メタボリックシンドロームのリスクが9%増加しました。