かなりの子煩悩で「カマチー」と独特の言い方でかわいがる

家庭での良一の様子がよくわかるのは、自伝への長男・服部克久の寄稿「父の想い出」から。

良一は子煩悩で、子供を殴ったこともきつく怒ったこともなかったというが、うれしいにつけ悲しいにつけ、ビールを飲んでは口ぐせの「涙ぐましいねえ!」を発したそうだ。

また、アルコールが回ると「良一語録」とも言うべき独特な言い回しが飛び出したが、その一つが「カマチー(かわいい)」。酔っぱらうと子供をべろべろ舐めたがり、子供たちが必死で逃げまくると、「本当にお前たちはカマチーだねえ」と言ったという。

他に、克久の小さな頃には、自分の息子を「本当にこいつはいいやつで……」と周りに紹介し、恥ずかしくなった克久が父の背広の裾を引っ張るまでやめなかったというエピソードや、脳梗塞で倒れて口が不自由になってから筆まめになったことなどが綴られている。

その一方、仕事場にこもって徹夜することも多く、「僕らが学校へ行く時間なんかでも、まだ前の晩から起きていて、母が後ろから棒で父の背中を押しているのに出くわしたりして、大変だなあ、と子供心にも感じたものだ」と振り返る。

長男の克久も作曲家になり「ザ・ベストテン」などで有名に

そうした両親を見ながらも、長男・克久は父と同じ作曲家となり、朝ドラ「わかば」(2004年度下半期)の主題歌や、「ザ・ベストテン」「クイズ100人に聞きました」(ともにTBS)のテーマ曲を作ったことなどで知られている。さらに、その長男で良一の孫・服部隆之も、父と同じくパリに留学し、音楽の道に進む(「ブギウギ」の主題歌も作曲)。自分から三代にわたって作曲家になったことは、良一にとってさぞうれしかった出来事だろう。

ところで、良一の自伝の賛美歌との出会いのくだりに、「子供のころのぼくの声は女の子のように澄んだ美しい音色のボーイソプラノだった」という記述がある。その表現から、下衆だとは思いつつも、どうしても想起されてしまうのが、世界的にも類を見ない数多の少年たちへの性加害問題が報じられているジャニー喜多川の存在だ。

ジャニーは服部良一と笠置シヅ子が1950年にハワイやロサンゼルスなど米国巡業を成功させた際に、ロスの公演先となったのが、ジャニーの父親・喜多川諦道が米国別院主監を務めていたこともある高野山真言宗の直営会場「高野山ホール」だったこと。二人のために買い物や世話などをしていたのが、ジャニーだったということは、広く知られている。