働きすぎの日本は世界で一番の長寿国

国際的に見て、「日本人は働き過ぎだ」と長らく言われています。

たしかに、それはそのとおりかもしれません。

しかし、図表4のグラフを見れば一目ですが、日本は世界で一番の長寿国です。

働き過ぎによる睡眠不足が、体に悪影響を与えているとすれば、日本人の平均寿命は他国に比べて短いはずです。ところが、実際は、そうはなっていません。

これは、いったいどういうことなのでしょうか?

図表4のグラフから言えるのは、世界的に見て、「日本型のライフスタイル」が一番、平均寿命を延ばすということです。

世界から「働き過ぎ」「睡眠不足」とされてきた日本人のライフスタイルこそが、健康に長生きするうえで、実は一番優れているのです。

日中にがんばって働けば、その分、睡眠時間は短くなります。

睡眠時間が短ければ、深い睡眠が増えて、睡眠の質が上がります。

つまり、「日中にがんばって働くこと」と「質の良い短い睡眠」がセットになって、日本人の平均寿命を押し上げてきたのです。

にもかかわらず、なぜ「睡眠負債」という考え方を中心に、「日本人」=「睡眠不足」=「体に良くない」という考え方が生まれ、広まっていったのでしょうか?

机に伏せて寝る人のイメージ
写真=iStock.com/Liubomyr Vorona
※写真はイメージです

早期リタイアで睡眠時間が長くなるアメリカ

まず「睡眠負債」という考え方が生まれた背景について説明しますが、これはアメリカ側の視点から生まれたストーリーです。

睡眠負債は、スタンフォード大学のデメント教授により提唱された概念で、「日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、心身に悪影響を及ぼすおそれのある状態である」と定義されています。

少し説明を加えておくと、睡眠負債という概念が生まれた背景には、睡眠不足による眠気が、数々の大事故を引き起こした歴史がありました。

スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故、アラスカのタンカー座礁事故、スリーマイル島の原発事故などの重大事故は、全て眠気が原因であると言われています。

そのため、「睡眠時間を増やして、眠気を解消させよう」というムーブメントがアメリカで起こったのです。

私自身はアメリカにも留学の経験があり、アメリカ人のライフスタイルを目の当たりにしてきました。

アメリカでは、早期にリタイアをして郊外に住んでいるシニアが数多くいます。

近所にコンビニやスポーツジムなどもないので、家でフットボールを観ながら、ビールを飲み、ポップコーンを食べるという生活が多いように感じました。

睡眠時間を増やそうというムーブメントに加えて、外でアクティブに活動する時間も減っているわけですから、睡眠時間が長くなるのは必然です。

こうしたライフスタイルと比較すれば、「日本人は働き過ぎで、睡眠時間も短か過ぎる」ということになるのでしょう。