睡眠時間が短い方が、深い睡眠の量が増える
次に図表2ですが、これは年代別、男女別に分けて、「深い睡眠の量」を比較したデータになります。
このグラフをご覧いただくと、深い睡眠の量は、女性よりも男性が少なく、また歳を取れば取るほど少なくなることがお分かりいただけるでしょう。
深い睡眠の量を増やすためには、起きている時間を増やして、睡眠時間を減らすしかありません。
父の研究のさらなる裏付けとなるのが、図表3です。
これは、かつて私が留学していたスイス・チューリッヒ大学の実験データです。
普段の睡眠が、平均6時間以下の人(ショートスリーパー)と9時間以上の人(ロングスリーパー)で、それぞれ深い睡眠の量がどれくらいあるかを調べたところ、6時間以下の人は平均して70分以上、9時間以上の人は平均して50分未満という結果が出ました。
9時間以上の人と比較すると、6時間以下の人の方が20分以上も深い睡眠が多いことが分かります。
つまり、この実験においても「睡眠時間が短い方が、深い睡眠の量が増える」ということが証明されたのです。
だからこそ、「いかに睡眠時間を削るか」が肝心です。
睡眠時間を削れば削るほど、逆に起きている時間が長ければ長いほど、睡眠は深くなるのです。
さて、ここで気になるのは「どれくらい睡眠時間を減らせばいいのか」、もしくは「睡眠時間を減らして本当に大丈夫なのか」という点ではないでしょうか?
最近、世間でよく言われるのは「睡眠負債が溜まるから、睡眠時間を減らすのは体に良くない」ということです。
睡眠時間を減らすことは、本当に体に良くないのでしょうか?
そもそも、どのような背景から「睡眠負債」という考え方が生まれ、広まっていったのでしょうか?
次は「睡眠時間」と「平均寿命」の相関関係について、国際比較の視点から考えてみることにしましょう。
「睡眠時間」と「平均寿命」の意外な関係
世間でよく言われるのは、「日本人は働き過ぎで睡眠時間が短い」「日本人は睡眠の質が良くない」ということです。はたして、本当にそうなのでしょうか?
この点を国際比較の視点から考えてみましょう。
図表4をご覧ください。
これは世界各国の「平均寿命」と「睡眠時間」の関係を示すグラフになります。
このグラフでは、OECDの主要加盟国の中から、比較的長期間、裕福だった国々を選び出しました。
その理由は、「貧困」と「平均寿命」には密接な関係があるからです。
「GDP」と「平均寿命」の関係を見ると、正の相関関係が見られます。
つまり「経済的に豊かな国ほど、平均寿命が長い」ということで、平均寿命は経済的な豊かさに左右される傾向があるのです。
そのため、貧困の問題がある日本以外のアジア、ならびに南米の国々を対象から外しました。
OECDの中から、長年にわたって生活水準が安定している国々のみをピックアップすることによって、「経済が平均寿命に与える影響」をできる限り排除し、「睡眠時間と平均寿命の関係」にフォーカスしたのです。
さて、前置きが少し長くなりましたが、図表4のグラフをご覧いただくと、近似直線が右肩下がりになっていることがお分かりいただけるはずです。
近似直線とは何でしょうか?
近似直線が右肩下がりであるということは、いったい何を示しているのでしょうか?
分かりやすい例を出すと、一般的に「身長」と「体重」の関係は比例します。
簡単に言えば、「身長が高い人の方が、体重も重い傾向がある」ということです。
例えば、小学校の1つのクラスに、10人の子どもがいたとしましょう。
図表5のグラフのように、それぞれの身長と体重に点を打っていくと、近似直線はたいてい「右肩上がり」になります。
近似直線が右肩上がりであるということは「身長と体重は正比例関係がある」、つまり、「身長が高い人の方が、体重が重い傾向がある」ということを示しているのです。
さて、ここまでをご理解いただいたうえで、もう一度、図表4のグラフをご覧ください。
平均寿命と睡眠時間の近似直線は「右肩下がり」になっています。
つまり、これは平均寿命と睡眠時間が「反比例」していることを示しています。
分かりやすく言えば、「睡眠時間が短い国ほど、平均寿命が長くなる傾向がある」ということを示しているのです。