左派の結束を高める道具に使われている

「あきたこまちR」への反対運動には、れいわ新選組や参政党も関わっているものの、いま最も影響を与えている政党は、社民党だ。

いまや3人まで減った同党の国会議員の1人、福島みずほ参院議員は2023年11月9日、SNSのX(旧Twitter)に「消費者の権利を守りたい!」というメッセージとともに、「あきたこまちR」への作付け転換を問題視する内容の会議のポスターを投稿した。その会議で、「秋田県の現状報告」をしたのは、県議会でただ一人、会派としての社民党に属する加藤麻里県議だ。

なお、同年4月の県議選では、社民党の公認を受けていた別の現職県議が落選。党勢の衰えを印象付けていた。

食の安全や消費者の権利を守りたいという思いは否定しないものの、「あきたこまちR」が危険であるかのような印象を消費者に与え、風評被害を誘う行為は見過ごせない。生産者や育種に関わった研究者、県の苦労を踏みにじるものだ。

「偽情報」の文字が躍る見出し
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その点に思い至らない、あるいはそれも致し方ないと考えるのは、こうしたネガティブキャンペーンが一部の左派にとって内向きの、結束を高めるための活動だからだ。「あきたこまちR」が反対運動の対象に選ばれたのは、おそらく手ごろな選択肢がほかになかったからで、秋田県にとっては過失がないのに被害に遭う「もらい事故」のようなものである。

なぜか「水俣病」と放射線育種を結びつける福島氏

福島議員の活動には、「風評加害だ」と批判が上がっている。

福島みずほ事務所に「あきたこまちR」に対する見解を書面で問い合わせたところ、3000字を超える回答があった。要約すると、(1)あくまで安全性の立証を求める、(2)カドミウムによる土壌の汚染をまずなくすべき、(3)農家が「あきたこまちR」と「あきたこまち」を選べるようにすべき――ということだった。

(1)は前述の「悪魔の証明」を求めるような行為であり、(2)の難しさは冒頭で紹介したとおりだ。(3)は後述する。

「風評加害」だとの批判をどう受け止めるか――という質問には、次のような回答だった。

「議論も説明も不十分なままの現段階において、政府に安全性の根拠となるデータを提示させることや、生産者と消費者の選ぶ権利の保障を訴えることが『風評加害』と言われるのは本意ではありません。『風評加害』という言葉を盾に発言や議論をさせないことは、将来に禍根を残すと考えます。多くの公害のケースで『風評加害』を理由に地元の人たちなどの発言を封じ、救済を遅らせた例は多いと考えます」

「あきたこまちR」と過去の公害が、なぜか同列に扱われている。この扱いは、Xへの投稿の意図を問う質問を受けた次の回答にも共通する。

「食べ物の安全は極めて重要なテーマです。安全性が立証される必要があります。また、予防原則も大事です。水俣病のように、長い間因果関係が立証されていないとして無視され続けたため、甚大な被害が発生したことを考えれば、公害も食べ物の安全も、予防原則に立つべきだと考えます」

これまで長年行われてきた育種方法の延長線上で生まれた品種と、重金属のメチル水銀による中毒性疾患である水俣病。両者がなぜ結びつくのか。筆者には理解できない。

回答には、現実と食い違う内容もみられた。たとえば次の部分がそうだ。

「『あきたこまちR』は特許料、品種許諾料を支払わない限り、栽培できないお米になります。負担は高く、収穫量が少ないのですから、農家にとっては不利な品種となります」

秋田県は「あきたこまちR」の収量について、従来の「あきたこまち」と同等だと公表している。福島議員側が農業に明るくないことがうかがわれる。