あきたこまちRの導入は「欠くべからざる措置」

秋田県議で「あきたこまち」の生産者でもある柴田正敏さんは、秋の収穫時期に対策地域を偶然訪れたことがあった。そのときのことをこう振り返る。

「ドロドロの状態の乾いていない田んぼにコンバインを乗り入れて稲刈りをしていた。なぜなのか聞いたら、カドミウムの吸収を抑えるために、穂が出る時期に田んぼを乾かさないようにしていると。カドミウムの対策は作業の面でみても大変だと痛感した」

稲は、出穂しゅっすいの前後にカドミウムを吸収しやすい。そのため、県は対策地域において出穂の前後3週間、つまり6週間にわたって田んぼに水を張り続けるよう農家に求めている。本来、出穂の前は水を張ったり乾かしたりを繰り返す。こうすることで、収穫時に田んぼがぬかるまないよう備えておく。それができない対策地域では、収穫に使うコンバインが田んぼに沈み込みやすくなり、作業の能率が落ちる。

県農林水産部水田総合利用課によると、「高温、干ばつの年は水を確保して対策することが大変になる」。農家の高齢化もあって、労力のかからない栽培の実現が急務であり、新品種の導入は悲願だった。柴田さんは「『あきたこまちR』の導入は、欠くべからざる措置だ」と話す。

栽培用イネ種子における遺伝子組換え体の検査
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品種改良の過程で一度だけ放射線を照射

「あきたこまちR」は、2015年に農水省所管の研究機関である農研機構によって品種登録された「コシヒカリ環1号」と「あきたこまち」を交配することで育種した品種だ。カドミウムを吸収しにくいという特徴を持ち、他の品種とかけ合わせることで、遺伝子組み換え技術を用いずにほとんどの稲の品種に同様の特徴を持たせることができる。

コシヒカリ環1号は、「コシヒカリ」に放射線の一種である重イオンビームを照射して生み出された。既存の品種に放射線を照射して、自然界でも放射線によって起きている突然変異を人為的に誘う手法だ。放射線育種というこの方法は、50年以上前から一般的な育種の方法として用いられてきた。たとえば梨の「ゴールド二十世紀」などがそれにあたる。

秋田県は「コシヒカリ環1号」に「あきたこまち」をかけ合わせる交配に着手する。そして、理論上は99.6%「あきたこまち」の遺伝子を持ち、品種の特徴はほぼそのままに、カドミウムをほとんど吸収しないという新たな特長を持たせた「あきたこまちR」を生み出した。