※本稿は、田淵俊彦『混沌時代の新・テレビ論 ここまで明かすか! テレビ業界の真実』(ポプラ新書)の第3章『病症Ⅱ:異常なまでの「忖度」をするという「だらしなさ」』の一部を再編集したものです。
ジャニーズ事務所のアイドルたちとの出会い
2023年の芸能界は、まさにジャニー喜多川氏の性加害問題に終始したといっても過言ではないだろう。
しかし、そういったニュースは少し前まではほとんどテレビでは見られなかった。「テレビ局の忖度」と非難され始めて、重い腰を上げて報道を始めたというのが事実である。
なぜテレビ局は、ジャニーズ事務所に忖度しなければならなかったのか。(2023年10月現在、新聞報道などでは「旧ジャニーズ事務所」という表記を使用しているが、本書においては「現在」ではなく「当時」のことを記すため、わかりやすさを優先して旧社名である「ジャニーズ事務所」という表記で統一する)
そしてテレビは、同じようにほかのタレント事務所や芸能プロダクションにも忖度をしているのだろうか。事実の裏側に隠されている、癒着の真実とその理由に迫る。
ここから伝えるのは、すべて私が経験したか、今回自ら取材をしたことである。推測はひとつもない。もちろん、社会に出て数年しかたっていない20代前半の若造が見聞きしたことだから、正確にものごとの本質をとらえられていないかもしれない。
だが、その経験は紛れもない「事実」であり、語られることのなかったエピソードである。だからこそ、この章のテーマである「忖度」の正体をおぼろげながら浮かび上がらせることができるかもしれない。そう考えて、ありのままに記すことにする。
歌番組のADになった入社2年目
取材に関しては複数の言質を取るようにした。また、その証言は情報提供者が伝え聞いたことではなく、あくまでも彼ら自身が経験したことに限った。そしてもうひとつ、最初にはっきりさせておかなければならないことがある。
これから伝えるジャニー喜多川氏の印象は、あくまでも当時の私の個人的な感想だ。本当の姿ではないかもしれない。それは私にもわからない。
もちろん、ジャニー氏を擁護する意図があるわけでもない。ジャニー氏の少年たちへの性加害と人権侵害は決して許されるものではないことは自明だからだ。
大学を出てテレビ東京に入社した私は、2年目からはアイドル歌番組に配属となってADをしていた。そんなある日、当時の上司であった沼部俊夫氏が私に声をかけた。
「ちょっと行くところがあるんだけど、一緒に来る?」
沼部氏は頭をつるつるにそり上げた強面で、やくざかと見まがうばかりの風貌だった。だが、性格はとても穏やかで優しかった。その容姿におさげのズラ(かつら)をかぶって、「おさげ沼リン」として画面にもちょくちょく登場していた。