日露関係が悪化する大きすぎるリスク
プーチンは、一応まともな選挙で選ばれ国民に支持されているし、ソ連解体のときには、ウクライナのほうが一人あたりのGDPが多かったのに、現在ではロシアの3分の1と逆転した。5200万人いたウクライナの人口は約30年間で4100万人に減り、今回の戦争で数百万人が逃げ出した。もしEUに加盟したとしたら半分も残るか疑わしい。
ソ連とロシアを同一視して、第2次世界大戦で不可侵条約を侵犯したとか、北方領土を不法占拠したというが、スターリンはジョージア人、北方領土問題の主役だったフルシチョフはウクライナ共産党のトップ出身、ブレジネフはウクライナ生まれでドニエプル川流域の軍事産業を基盤としていた。シベリア抑留はウクライナでも行われたし、北方領土の多数派住民はウクライナ系だ。
ウクライナは、中国に空母を売り、北朝鮮にミサイル技術を輸出した疑惑が報道されるなど(在日大使館は疑惑を否定)、日本に友好的とはいえなかったし、2023年のG7広島サミットではゼレンスキー大統領が原爆の悲劇をウクライナの現状と同等だと矮小化した。
一方、日本にとってロシアは隣国だ。経済協力の可能性、北方領土交渉、漁業、アイヌ、対北朝鮮・韓国・中国でロシアが相手方についたときの面倒を考えると、ロシアとの関係悪化がもたらすマイナスは計り知れない。
軍事侵攻を機に、大飢饉が「大虐殺」に
ウクライナやイスラエルの主張には、日本が困るものも多い。近代国家は同系統の民族を統一していくことで発展してきた。ウクライナは、ロシア革命前に独立国であったことがない。ロシアとの縁切りが唯一の正義なら、独立国だった沖縄はどうなるのか。無条件に欧米の論理に与することは、中国の沖縄への干渉を正当化しかねない。
ウクライナ開戦後に歴史認識が変更されたことも問題だ。1930年代にソ連の一員だったウクライナでは「ホロドモール」という大飢饉が起き、数百万人が餓死した。その原因は農業政策の混乱だった。
このホロドモールについて、ロシア南部やカザフスタンでも同様に犠牲者が出ていることなどから、これまでは欧米でもウクライナ人へのジェノサイド(大量虐殺)とするのは適当でないと考えられてきたにもかかわらず、ロシアの軍事侵攻を機に、欧米の一部でジェノサイドと認定されるようになった。これは、戦前の日本が悪意でやったわけでないことまで批判された経緯とよく似ていている。