衆愚政治化を止める唯一の方法とは

問題は、現実にありえない政策を掲げる人物を、なぜ国民が選ぶのかだ。トランプ氏は、大統領選で「MAGA」というスローガンを掲げて当選した。Make America Great Again、アメリカをふたたび偉大な国にするという意味だ。実はミレイ大統領も選挙で「MAGA」を掲げて聴衆から喝采を浴びている。アルゼンチンも頭文字がAなので、国名だけを入れ替えてスローガンを拝借したわけだ。

MAGAという主張には、誰も反論のしようがない。アメリカのリベラル派も自国が復活してほしいと願っている。このように誰も文句のない主張をする人を、英語圏では「マザーフッド」と呼ぶ。「母の愛は素晴らしい」といったあたりまえのことを、さも意味のあることのように言うのはバカだと揶揄するときに使う表現である。

MAGAはまさにマザーフッドだが、右傾化を許した国の国民は、マザーフッドだと思わずに素直に心を震わせる。反知性主義とも言われる所以だ。はっきり言えば、衆愚政治化が進んでいる。

衆愚政治から抜け出す道は一つしかない。国民が賢くなることである。

私は学校で政治家の甘言を見抜く政治リテラシーの教育をしたらいいと思う。特定の政治的思想を教えるのではない。右だけではなく左にもポピュリストやアジテーター(扇動者)はいる。「こういうのが還付金詐欺です」と警察が啓蒙するように、ポピュリストの手口を広く教えて、それに惑わされずに自分の頭で考える術を教えるのだ。

残念ながら今のところ学校で「市民術」と言えるような、政治リテラシーを教えている国はない。それならば、右傾化していない国の国民は、なぜ政治的に成熟しているのか。

ポピュリスト勢力の拡大を抑えられている国には、ある共通点がある。ベルギー、シンガポール、ポーランド。これらは国土や人口、資源などの面でハンデを負った小国であり、政治的には大国のはざまで何とか生き抜いてきた歴史を持つ。真剣に政治のことを考えないと国が消滅するおそれがあるので、国民が政治参加に積極的で、お互いに啓発し合うのである。

一方、右傾化しやすいのは、少なくとも一度は栄華を誇った過去があり、現在も何らかの条件に恵まれ、必死にならなくてもとりあえず生きていける国だ。アメリカやヨーロッパの大国、アルゼンチンがまさしく当てはまる。

没落しつつも、まだ経済大国である日本は後者だ。アルゼンチンと同じバラマキ大国である日本も同じ轍を踏むのか。それは、国民の集団知性しだいである。

(構成=村上 敬)
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