「本当の愛情関係」なるものは、いったいどこにあるのか。社会学者の山田昌弘さんは「社会学的に言えば、他人が何と言おうが、その人がそれを愛だと思えば愛なのです」という――。

「本当の愛」っていったいなに?

〈これも愛 あれも愛 たぶん愛 きっと愛〉

もう45年も前になりますが、1979年に、テレビドラマの主題歌「愛の水中花」で有名になったのがこのフレーズです(作詞:五木寛之/『水中花』五木寛之原作、1979年TBS放映)。

笑顔のカップル
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです

中高年のみなさんは、バニーガール姿の松坂慶子さんを思い出す人も多いかもしれませんね。私は、現代日本社会に広がる状況は、まさにこのフレーズに集約されていると考えています。

前回、「愛の分散投資」の例として、「推し活」「キャバクラや性的サービス業に通う既婚男性」や、「夫と仲が悪いわけではないが一番好きなのはペットという既婚女性」を取り上げました。

みなさんの中には、「推し活、キャバクラ・キャストやペットとの関係は、単なる遊びであって、本当の愛情なんかではない」と思う人もいるかもしれません。

では、“愛がある関係”とはどのようなものでしょうか? 「本当の愛情」とはなんでしょうか? どこに、本当の愛情関係なるものがあるのでしょうか。

「本当の愛、偽物の愛」も分析の対象

愛に関しては、文明誕生以来、さまざまな哲学的、文学的議論がなされてきました。そこでは、「本当の愛は何か」というテーマで、有名無名の哲学者や文学者たちによるさまざまな愛が語られてきました。日常的にも、「そんなのは本当の愛ではなくて、自己満足にすぎない」などの意見が飛び交うこともあります。

本連載では、どの愛が正しく、どの愛が偽物である、といった判断には立ち入りません。

社会学的に言えば、他人が何と言おうが、その人が愛だと思えば「これも愛、あれも愛」なのです。

どのような人が、どのような時、どのような愛を感じているかを分析していくのが、「愛」の社会学だと私は思っています。「本当の愛、偽物の愛」といった区別も、誰がどのような理由でそう思っているかという点で、分析の対象になります。

例えば、ペットをかわいがっている人の中には、ペットには「見返りを求めない」から、なんらかの見返りを期待する人間相手よりも「純粋な愛情があるんだ」と言う人もいます。キャバクラ・キャストやホストに入れ込む人を非難する際に、キャストやホストはお金目当てで「好きなふりをしているだけ」という意見もあります。

しかし、私は夫婦関係をインタビュー調査する中で、夫は嫌いだけど離婚すると生活ができないので「仕方なく一緒にいる」と言う女性に何人も会ってきました。うち一人は、「夫が寝たきりになったら復讐しようと思っています」と言い、「でも夫は、自分たちを仲の良い夫婦と思っているでしょうね」と答えたのが、印象的でした。彼女は生活を夫の収入に依存しているがゆえに、夫に対して愛情があるふりをしているのです。