女の覚悟に号泣した

しかも、夫の天海一平(成田凌)が浮気、劇団女優との間に子供ができた後の千代が何と冷静なこと! 怒りと悲しみを飲みこみ、女の意地を見せた千代。慣れ親しんだ道頓堀を離れる潔さは弱さの裏返しでもある。その覚悟に号泣した記憶が。

モノは投げるわ、罵詈ばり雑言吐くわ、ムチャブリ(四つ葉のクローバーと新聞の誤字脱字を毎日探せ、など)するわの暴君師匠・山村千鳥(若村麻由美)は、千代と似た境遇(父に追い出されて孤独)であることもわかり、芝居だけでなく人生の師匠にも。

また、幼少期の千代を排除した継母の栗子(宮澤エマ)は千代の許し難き宿敵と思いきや、後半で驚きの事実が。そして、女たちの優しい連帯が始まる。想像をはるかに超えてきた展開に膝を打った次第。続いては、名作中の名作。

感銘を受けた濱田マリのセリフ

2位 時代を変える発想力、過酷な労働も根性で乗り切る

巻き舌で啖呵きる有言実行の女「カーネーション」(2011年) 91点

コシノアヤコと3人の娘(ヒロコ・ジュンコ・ミチコ)の怒涛どとうの半生を、震えるほど完成度の高い人間ドラマに仕上げた傑作。ずっと不動のマイベストだった。なんといっても、ヒロイン小原糸子を演じた尾野真千子に魅了された。

出典=NHKオンデマンド「カーネーション」
出典=NHKオンデマンド「カーネーション

大阪・岸和田のだんじり祭りが大好きでも、女は神輿に乗れず。男尊女卑が当たり前の時代、呉服屋を営む父(小林薫)は頑固者で、ことあるごとに父とぶつかる糸子。頑固者同士の意地の張り合いには迫力と見ごたえがあり、どこか滑稽でもあり。

アッパッパを縫って売れた喜び、着物から初めて洋服を着て街を歩いた気持ちのよさ、糸子が体験する快感と発見を我が事のように感じられたのは、尾野の熱演のお陰だ。糸子が努力と根性と商才で父親を超えていく姿は気持ちよかったし、実際に超えたときの一抹の寂しさもよくわかる。親の老いを病気や死ではなく寂しさで表現することで、ヒロインが自らに課す大黒柱の責任感に重みが出ていた。

元気で猪突ちょとつ猛進なヒロインではあるが、精神的な責め苦もしっかり用意してあるところは、さすが渡辺あや脚本。戦争で心病んだ幼馴染・勘助(尾上寛之)を元気づけようとした糸子は、勘助の母(濱田マリ)から絶縁される。

「世の中みんなあんたみたいに強かない。あんたみたいにずっと勝ってない。あんたの図太さは毒や!」。あのシーンは「努力と根性のある強者だけが光輝く物語」ではないことを示唆していて、深く感銘を受けた。

それだけではない。浮気していた夫(駿河太郎)へのやり場のない怒り、既婚者・周防(綾野剛)との願っても叶えてもいけない恋の後始末、身内や親しい人からつるし上げに遭う地獄……。

そもそも糸子は近年の朝ドラヒロインの中でも、もっとも過酷な肉体労働を自らに課す。「一晩でパッチ100枚」「300坪のタバコ栽培に使うテント」のムチャブリ注文を引き受け、自分の祝言の日ですら「制服10着」を縫って縫って縫いまくる。精神的にもしっかり追い込む要素があって、ご都合主義では決して終わらせない不屈のヒロインを完成させた作品でもあった。そんな傑作「カーネーション」を僅差で上回った作品がある。