朝ドラ史上最も濃密な夫婦関係
1位 ドのつく貧乏、厄介な父親、女であることの壁
夫婦は「同志か、男と女か」を世に問う「スカーレット」(2019年) 93点
陶芸家・神山清子をモデルに描いたフィクションで、主役の川原喜美子を戸田恵梨香が演じた。戸田は中学生から晩年までを違和感なく演じきったし、劇中で情熱や執着、嫉妬や覚悟といった感情の暗喩に使われた「燃え盛る炎」が実にしっくりくる女優でもあった。尾野真千子同様、なにくそ根性がすごいんすよ。私の大好きな要素がてんこもりで、20項目中15項目が5点だったのである。
まず、お人好しで酒飲み、金のトラブルも多いが、基本は働き者の父(北村一輝)。「おなごに学問は必要ない」の一点張り、口ごたえすればちゃぶ台をひっくり返す典型的な昭和のクソオヤジである。
ただし、喜美子はそんな父にずっと従ってきた。家はド貧乏、絵を描くことが好きだったが進学できず。父が見つけてきた就職口は大阪の下着会社の社員……ではなく、その社長がもつアパート「荒木荘」の女中、要するに下働きだ。少ない給金で家計を支え、父の借金を肩代わりし、自分のやりたいことをやるためにはいちいち父の許しを請わなければいけない。あまりに不自由で不憫だが、喜美子には試練だけでなく、ソウルメイトと遭遇するご褒美も与えられた。それが十代田八郎(松下洸平)である。八郎は父とは真逆、「男女対等の精神」と「共通言語」の持ち主だったのだ。
たぶんこの夫婦の対話は、朝ドラの中でも最も濃密で深いものだったのではないだろうか。いちゃつくふたりも可愛らしかったし、欲望を口にする素直さもよかった。これで喜美子の苦労も報われると思いきや……別れるのである。お互いが次第に息苦しさを感じていく。陶芸家としての才能や情熱、相互扶助の考え方、並んで歩くはずがふたりの歩調がずれていく。
ベスト5のうち4作品が大阪局制作
夫婦は「同志か、男と女か」。喜美子はさんざん「女であることの不自由」に耐えてきたため、八郎には同志であってほしかったのだろう。八郎は愛情の深い優しい男だが、喜美子が抱えてきた「性差による不自由への抵抗」まで慮ることはできなかったように思う。嫌いになったわけでも憎んでいるわけでもない、ほんの小さな亀裂だが修復不可能な溝へと広がる様子が痛くて切なくておいおい泣いた。
かいつまんだつもりが結局長くなっちゃった。ということで、10月2日からは趣里がヒロインを演じる「ブギウギ」が始まる。今回書いた5作品中4作品が実は大阪局制作……。どんだけ大阪局好きやねん。メモをとる準備は万端だ。