主婦やお母さんの「すごい編集力」

料理人は、まず何品かの料理の見当をつけて素材を仕入れる。ついで、長年のレシピの経験をいかしてみごとな手順をたてる。調理中はアク抜きをしたり、あしらいものをきざんだり、ガスの火を強めたり弱めたりして、いくつもの過程を並列処理する。さらには織部おりべの皿や塗りのお椀などの器を選び、盛り付けの量を調整する。おまけに「雲丹かぶら蒸し松葉添え」などといったタイトルまで考え、客の食べ方に応じたタイミングさえはかる。これは立派な編集なのだ。

懐石料理
写真=iStock.com/Nick Poon
※写真はイメージです
松岡正剛『知の編集工学 増補版』(朝日文庫)
松岡正剛『知の編集工学 増補版』(朝日文庫)

世のお母さんがたの日々の仕事もたいへん編集的である。育児と家事には授乳から子どもの送り迎えまで、掃除・洗濯・食事の用意から家族の健康管理や近所づきあいまで入っているし、夫との葛藤の解消もときどきはしなくてはならない。たんに多事多忙だというのではなく、これを朝昼晩のプログラムにもとづいて強弱をつけながら片づけていく。

ウィーン生まれの哲人イヴァン・イリイチによって、賃金が支払われていないという意味で「シャドウ・ワーク」という名を与えられた主婦やお母さんの日々の仕事には、子どものいない私などが見ると、ただ驚嘆するしかないような編集力がつねにいかされている。私の妹を見ていても、子育てと石油会社勤務と母の世話と夫のカバーを、なんとも奇跡的なしくみで編集しているのがよくわかる。加えて趣味の山登りも欠かさない。その一部始終は彼女が日々の中で組み立て、彼女が日々の中でレイアウトしている「一冊の生きたマガジン」だ。

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