「きつい職場」と同じくらい「ゆるい職場」も離職者が多い

なお、この観点から分析すると職場に対するキャリア不安が短期的な離職意向につながっていることが見えてくる。職場のことを「ゆるいと感じる」か「ゆるいと感じない」か別で、離職意向(すぐにでも退職+2〜3年で)を確認したところ、U字カーブ状の構造になっていた。

高かったのは「ゆるいと感じない」という“きつい職場”にいる者と、その反対の状況にある者、つまり「ゆるいと感じる」という“ゆるい職場”にいる者であった(図表3)。

つまり、「職場がきつくて辞めたい」という若手も、もちろんいまも存在しているが、同時に「職場がゆるくて辞めたい」という若手が存在しているということだ。

ここにもある種の二極化が存在している。

若者に「新しい安定志向」が生まれた

こう考えたとき、成長機会無き職場には、安定がないと感じるようになる若者のグループが出現する(筆者はこれについて「職場のキャリア安全性」という概念を提唱している)。これを筆者は「新しい安定志向」と呼ぶ。

「果たして自分はこの会社を辞めたときに、活躍する場があるのだろうか」ということを誰しもが考えるわけだ。だから、成長したい。それは教条的な意味での「成長しないといけない」ではなく、生存欲求や幸福追求の意味の「できれば成長したい」である。

その会社を辞めるときの自分は、他の会社で活躍できる状況にありたいと考えている。こうした共通認識が広がっていることが「成長を求める若者が増えた」と言われる背景にあると考える。別にみんながみんなギラギラとして成長したいわけではないのだ。実際に、2割の人は定年退職まで働くつもりだと回答していることも勘案いただきたい。

古屋星斗『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日経BP)
古屋星斗『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(日本経済新聞出版)

ただ、ギラギラしていようといまいと、周りを見て焦らない人はいないだろう。周りの情報を完全にシャットダウンできればいいが、現代社会でそれにはどのくらい強い意志が必要だろうか。

いずれにせよ、若手にいろいろな考え方があることを前提としながら、彼ら彼女らを取り巻く環境に注目した際に、近年の職業社会や職場環境の変化の大きさに気づかざるを得ない。選択の回数が増える職業人生、法改正による「ゆるい職場」の登場、こうした環境変化の結果として、若者の不安と焦り、そしてある種の横並びで「成長をしなければいけないのではないか」「成長してスキルや経験を獲得するのが安定だ」という機運が高まっていると、筆者は理解する。

若者が変わったのではない、職場が変わったのだ。

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