新社長はサイゼリヤ勤務39年のプロパー

23年8月期の好決算は、堀埜氏の過去における戦略的な打ち手が急激な円安傾向という外的要因によって功を奏した結果でもあります。そして、長らく続いたデフレ経済をベースとした時代が終焉しゅうえんを迎えようとしている今年度あたりまでが、堀埜氏の過去の打ち手の有効期限であるように思います。

この先、金利が上昇に転じ、円安傾向が解消し、デフレ経済からインフレ経済に転換していく新たなフェーズ入りをするならば、堀埜氏であれば「思いつき」と「思い切り」を元にどのように論理的に対処していったのだろうか、それを見てみたかったというのが企業アナリストとしての筆者の偽らざる気持ちでもあります。

後任の社長は、サイゼリヤ勤務39年のプロパー社員で主に資材やインフラ面を担当し、直近は総務本部長として運営管理を担当してきた松谷秀治氏です。学歴等の情報が開示されていないので詳しくは分かりませんが、サイゼリヤ一筋で主に総務的な畑を歩まれた経歴からは、正垣氏、堀埜氏とはだいぶ毛色の異なる人物であるように見受けられます。もちろん、堀埜氏をスカウトした正垣会長がその後任にふさわしいとの判断があっての抜擢でしょうから、そこに大きな問題を感じるということではありません。

粉チーズの有料化は「画期的な打ち手」

松谷社長は、就任からこの1年は基本的には堀埜路線踏襲で経営の舵取りをしてきた印象ですが、粉チーズの有料化に踏み切ったことは、小さな施策とはいえ「値上げをしない」サイゼリヤとしてはある意味で画期的な打ち手であったように思います。インフレ経済到来に向け「値上げ」も視野に入れた基本戦略の見直しもありうる、という松谷社長からのメッセージなのかもしれないと受け止めました。

サイゼリヤにとって、円安傾向の解消、インフレ経済の進展という今後予想される展開の中では、アジア依存の収益構造の解消と、全店舗の3分の2を占める国内において稼げるビジネスモデルをいかに再構築するかが最大の課題です。創業者と二代目が築いたデフレ経済に強い「理系型」飲食チェーンモデルに対して、来たるインフレ時代に向け松谷社長がいかなる転換を仕掛けていくのか、大きな関心をもって注視していきたいと思います。

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