赤字の国内事業に襲いかかる「さらなる試練」

長らく続いてきたデフレ経済に加え最近時の円安局面でも功を奏しているこの「理系型」飲食チェーンモデルですが、この先の展望はどうなのでしょうか。

現状、実質2%超の物価上昇が1年半以上続く中で、さらにこの先2年、3年と上昇が続くことを日銀は認めています。また、市場では来春にはマイナス金利政策が解除され金利は上昇に転じる見通しと噂されています。そうなれば内外金利差が縮小し、円安傾向は緩やかに是正に向かうでしょう。企業経営は、デフレ経済対応から一転、インフレ経済への対応が求められることになるわけです。

手はサイコロを回し、「デフレ」という言葉を「インフレ」に変える
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サイゼリヤにとって円安解消傾向への転換は、海外売上にストレートにダメージを与えます。現状の1ドル=150円が120円まで円高傾向に転じるなら、単純計算で何もしないで2割の利益が消失するわけです。

一方、円高要因は物価押し下げに寄与するものの、政府・日銀が脱デフレをめざす国内経済は、金利上昇、人手不足も含めた賃金上昇傾向や世界情勢の不安によるエネルギーコストの高止まり等でトータルではインフレ傾向に推移することが予想されます。原材料費やパート・アルバイト賃金の上昇は、「値上げをしない」サイゼリヤにはボディブロー的に効き、赤字の国内事業にはさらなる試練となりそうです。

「消費者ニーズの転換」を追いかけきれるのか

さらに、アパレル業界のユニクロと並んで、デフレ経済の申し子的に低価格戦略で成長を遂げてきた同社にとって、インフレ経済への転換による消費マインドの変化もマイナスに働く懸念があります。

低コストを守るためにサイゼリヤはメニュー絞り込みを徹底しており、ここ数年間その総数は約70前後で推移しています。最近時はさらなるコストの抑制目的で、一層のメニュー絞り込みが進んでいます。他のファミレスチェーンの約3分の1から4分の1のメニュー数のまま、インフレ経済への転換局面で所得増加による消費者ニーズの転換を追いかけきれるのか、このあたりも不安要素として浮上してきます。

昨年8月、正垣氏の後を受け13年間社長として腕を揮い、第二の成長期をけん引してきた堀埜氏が、突如「一身上の都合」で退任しました。詳細な退任理由は不明ですが、すべての役職から完全に外れていることから、何か思うところあってのことなのでしょう。

「経営は『思いつき』と『思い切り』がすべて」と言い切りつつも、理系らしい論理性に裏打ちされた戦略を積み重ねることでサイゼリヤの成長をけん引してきた堀埜氏を、この時期に失った痛手はことのほか大きいかもしれません。